第二章 第三六話 対話編
CASE 名 の裏に 実
マナミ 外に見とめる、名って、どういうものなの?
マサシ 名とは、形を持って、外に表れているものさ。
マナミ 内に見とめる、実って、どういうものなの?
マサシ 実とは、型を以って、内に現れているものさ。
マナミ じゃ、名が表われると、実が現れてくるの?
マサシ 違うよ、型が現われると、形が表れてくるよ。
マナミ 実が無い所に、名を付けると、どうなるの?
マサシ 中身を損い、形骸と化して、本末が転倒する。
マナミ 実が有る処に、名が現れると、どうなるの?
マサシ 中身が伴う、骨子と化して、首尾が一貫する。
マナミ 何より、実が伴なった、型を創り上げれば、
自ずから、名が従がって、形が造り上がるの?
マサシ そうさ、型が無いのに、形を作ろうとすると、
無理やり、名という実を、見せ掛けてしまう。
マナミ 本末転倒し、形骸と化した、伝統を守ること。
そのこと自体、目的に化けて、囚われるのね。
マサシ そうさ、実の方が先だと、解ってくれたかな?
マナミ うん、解ったの、ちゃんと、皆にも教えるね。
マサシ 待って、君の方が先だと、判ってくれたかな?
マナミ ……………………!!
CASE 実 の先に 名
サトミ 器の外を飾る、名って、どういうものかな?
メグミ 名とは、得を持って、他から見られるものよ。
サトミ 外の名は、欲を解して、他が認めるものなの?
メグミ そうよ、損や得を介して、他が名を付けるの。
サトミ それなら、自ら付ける名は、有り得ないの?
メグミ 自ら備える、そんな名は、匿名に過ぎないよ。
サトミ 器の内に実る、実って、どういうものかな?
メグミ 実とは、徳を以って、自から見られるものよ。
サトミ 中の実は、欲を超えて、自ら認めるものなの?
メグミ そうよ、損や得を越えて、自ら実を付けるの。
サトミ それなら、他が着ける実は、在り得ないの?
メグミ 他が供える、そんな実は、不実に過ぎないよ。
サトミ じゃ、偽物は、他の評判に、捕らわれるけど、
反対に、本物は、人の評価に、囚われないの?
メグミ 本物ほど、徳に臨むから、損得は望まないよ。
サトミ う~ん、名を望まないって、凄いことだよね?
メグミ うん、それが解かるだけでも、凄いことだよ。
サトミ でもね、そんな本物って、本当に居るのかな?
メグミ うふ、知られてないだけで、近くに居るかも。
サトミ ……………………!!
CASE 名 という 実
サトシ 周りが供える、名って、どういうものかな?
アツシ 名とは、損と得に解して、器に付けるものだ。
サトシ 自らが具える、実って、どういうものかな?
アツシ 実とは、損や得を介さず、器に満ちるものだ。
サトシ 中の実は、欲が付いてない、徳そのもので、
外なる名は、欲が着いて、損得に解されるの?
アツシ そうだな、名に囚われれば、徳が欲に塗れる。
実が腐って、型が壊れて、道が歪み始めるぞ。
サトシ たとえ、外の者により、何と呼ばれようと、
ひたすら、型を演じるのが、真の実なのかな?
アツシ 他の者から、褒められようが、罵られようが、
ひたすら、徳を磨き続けるのが、真の道だな。
サトシ そっか、実が在れば、自ずと、道が生じる。
自ずから、人が集まり、名が付けられるのか。
アツシ そうだ、名を付けて、人を集める必要はない。
サトシ でも、名を売って、人を誘う道もあるよね。
アツシ むしろ、今の世の中、そういう道ばかりだな。
サトシ どうして、誤った道が、こんなに広がったの?
アツシ それは、誤った道でなく、そういう道なんだ。
サトシ ……………………!!
CASE 実 という 名
サトシ 僕は、これから、仏陀を名乗ろうと思うんだ。
マサシ そんな、恥かしいことは、止めた方が良いよ。
そんなの、自己矛盾の、最短記録じゃないか。
サトシ 本物ならば、そんなこと、言わないってこと?
マサシ 仏陀とは、名を騙らず、実を語るものなのさ。
サトシ でもさ、少しぐらい、騙っても良いでしょ。
僕は、すべての人々を、仏陀にしたいんだよ。
マサシ つまり、良いことだから、騙っても良いと?
サトシ うん、完全でなくても、仏陀の様なものだよ。
マサシ 少しでも、型が歪んだら、形が歪み続けるよ。
君のような、人を集めたい、人が集るだけさ。
サトシ 人類の救済に、全く為らない、そういうこと?
マサシ 全く逆だよ、人を酔わせて、目を潰している。
サトシ 仏の名は、貴重なんだよ、効果が高いんだ。
だから、救済のために、使わない手はないよ。
マサシ いや、歴史を通じて、そういう偽者ばかりさ。
だから、それこそ君が、本物になるべきだよ。
サトシ いや、そんな事してたら、時機を逃しちゃう。
マサシ これこそ、自己撞着の、最高記録じゃないか。
サトシ ……………………
CASE 実 と 道 と 名
サトシ 世を映すもの、道って、どういうものかな?
マナミ 道とは、型を形に変えて、世を移すものなの。
サトシ 型を映すもの、実って、どういうものかな?
マナミ 実とは、損と得を越える、徳を写すものなの。
サトシ 形を映すもの、名って、どういうものなの?
マナミ 名とは、損と得に塗れる、欲を写すものなの。
サトシ そもそも、損や得に塗れる、実なんて無いの?
マナミ 他から、何と呼ばれようとも、全く構わない。
その徳が、世の型として、世の中に現れるの?
サトシ 欲を持つ者が、その型を望むと、どうなるの?
マナミ そこに、道が生じて、型から形が作られるの。
サトシ 道を辿り、欲を越えると、どうなるのかな?
マナミ 次第に、型に似るから、実を得るようになる。
サトシ 道を辿り、欲に塗れると、どうなるのかな?
マナミ 次第に、形が歪むから、名を売るようになる。
サトシ 最終的に、型から外れて、道を進めないのか。
マナミ 実を諦めて、名から生じる、得に甘んじるの。
サトシ 道を進む者で、それをしたら、終わりだよね。
マナミ そういう批判も、売名になるの、注意してね。
サトシ ……………………!!
CASE 実のない名 と 名のない実
サトミ 名と実、どちらの方を、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 外に表われる、名って、どういうものかな?
メグミ 名とは、外を飾っている、他が決めるものよ。
サトミ 中に現われる、実って、どういうものかな?
メグミ 実とは、内に稔っている、自ら極めるものよ。
サトミ 名を重んじて、実を軽んじると、どうなるの?
メグミ 実のない名なんて、根の無い花に過ぎないよ。
サトミ じゃ、咲いていても、枯れてしまうのかな?
メグミ そうよ、稔らないから、再び味わえないのよ。
サトミ 実を重んじて、名を軽んじると、どうなるの?
メグミ 名のない実なんて、芽の無い実に過ぎないよ。
サトミ じゃ、稔っていても、眠ってしまうのかな?
メグミ そうよ、咲かないから、誰も味わえないのよ。
サトミ 名だけは、飾り易いけど、剥れ易くなるし、
実ばかりは、咲き難いから、探し難くなるの?
メグミ そうよ、名と実、その両方が、必要になるの。
サトミ じゃ、実を研きながら、名を磨いていくの?
メグミ うふっ、名を究めながら、実を極めていくの。
サトミ ……………………!!