物語編
第二章 第三八話 物語編
第二章 才 と 徳
第三八話 欲を業にする と 欲を空にする
「耳障りに敵を誉めますが、本当に然うですか。
徳などという、実体のないものを、思い込まされ、
奴によって、操られているだけでは、ないのですか。」
〈才に対する飽くなき欲を、君は持っているか。
彼なら、たとえ敵の才だろうと、余す所なく愛す。
事実、敵であった君の才まで、喰らい尽そうとした。〉
「いや、才が、どれほどのものと言うのですか。
欲が、才に向けられようと、他に向けられようと、
私には、欲であることに、大差ないと思われますが。」
〈人の才は、欲の極みであり、徳の証しである。
才に対する飽くなき良くは、実に、徳に対する欲。
才を究めることこそ、生の意味、徳そのものである。〉
「しかし、生まれながらの、才もありましょう。」
〈否、伝えられない才に、いかなる価値があろう。
いつ得たか解らないものは、いつ損うか分からない。〉
〈先ず、自ら才を深めて、己の得としたものは、
次に、他に才を広めて、己の徳としておくものだ。
つまり、才を修めて、徳に収める、これが業である。〉