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物語編

第二章 第四七話 物語編

第二章    有為   と   無為
第四七話 囚われて為す と 捕われず為す

 

こうして、諸子百家、全てが彼に組み伏した。
いや、負けていることすらも、気づかせていない、
圧倒的な彼の勝利で、完全なる法の支配が完成した。

 

いや、彼の法を退けるかの如く、私は言葉を遮った。

 

確かに、彼の覇業は、悉くが理に適っている。
しかし、あまりにも、情が足りないのではないか。
理を好む強きには善政も、利に頼る弱きには悪政だ。

 

彼は、生まれつき、何もかも与えられていた。
それゆえ、何もない者のことが、分かっていない。
だからこそ、弱き者に強きの道を、押しつけられる。

 

私が、首を振って言うと、彼も、首を振って言った。

 

君は誤解しているが、彼の血こそ最も卑しい。
彼の系譜は濁流と呼ばれ、清流から忌み嫌われた。
地の利、人の和に与らない、天の時に彼は生まれた。

 

彼は、斯くなる境遇を、呪う事なく受け容れ、
あらゆる損を得に変え、あらゆる得を徳に変えた。
すなわち、天の時に抗い続け、天の命を勝ち取った。

 

彼ぐらい、弱き者の弱みを、知る者は居ない。
また、彼ほど、弱き者の強みを、知る者も居ない。
疾風に勁草を知る、彼が吹く風は、厳しいが優しい。

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