第二章 第四九話 対話編
CASE 尚愚 の裏に 尚賢
マナミ 愚者を尚ぶ、尚愚って、どういうものなの?
マサシ 尚愚とは、愚者に倣って、利を貴ぶことだよ。
マナミ 賢者に従わず、愚者に順うと、どうなるの?
マサシ 誰もが、理に背くから、利が滞るようになり、
そうして、道に叛くから、理が歪んでいくよ。
マナミ 賢者を尚ぶ、尚賢って、どういうものなの?
マサシ 尚賢とは、賢者に習って、理を尊ぶことだよ。
マナミ 愚者に順わず、賢者に従うと、どうなるの?
マサシ 誰もが、理を通すから、利が巡るようになり、
そうして、道を徹すから、理が直っていくよ。
マナミ すると、賢者に習った方が、良いことばかり。
どうして、愚者に倣った法が、受けているの?
マサシ 欲が深いと、大局の理より、目先の利を望む。
理を負うより、利を追う方が、良く映るのさ。
マナミ 社会全体で、一斉に負えば、出来ると思う。
マサシ それでも、自分は得したいと、想うものだよ。
マナミ う~ん、損を押し付け合う、嫌な世の中ね。
マサシ そうして、目先に囚われたら、君も同じだよ。
君だけでも、道理を尊べば、それで良いのさ。
マナミ ……………………!!
CASE 尚愚 の先に 尚賢
サトミ 私欲だらけ、小人って、どういうものなの?
メグミ 小人とは、利を重んじて、得を欲するものよ。
サトミ 小人に倣い、得を求めると、どうなるのかな?
メグミ 誰も彼も、道を軽んじて、退行していくのよ。
サトミ 人々の上に、小人が立つと、どうなるのかな?
メグミ 理が歪み、下から上へと、利を吸い上げるよ。
サトミ 私欲がない、君子って、どういうものなの?
メグミ 君子とは、理を重んじて、徳を欲するものよ。
サトミ 君子に習い、徳を求めると、どうなるのかな?
メグミ 誰も彼も、道を重んじて、成長していくのよ。
サトミ 人々の上に、君子が立つと、どうなるのかな?
メグミ 理が直り、上から下へと、利が滴り落ちるよ。
サトミ う~ん、君子を立てた、社会の方が良いよね。
なぜ、小人を立てる、社会の法を作るのかな?
メグミ 君子に、媚びても、見返りは望めないけど、
小人には、諂うほど、見返りが望めるからよ。
サトミ そっか、目先の見返りに、囚われているから、
結局、社会が苦しくなって、自ら損するのね。
メグミ うふっ、損しても良いくらい、賢くなってね。
サトミ ……………………!!
CASE 尚賢 という 尚愚
サトシ 愚者に倣う、尚愚って、どういうものかな?
アツシ 尚愚とは、利に誘われて、掬われることだな。
サトシ 愚者は、甘い言葉だけ、望もうとするのかな?
アツシ そうだな、理の表面しか、認めようとしない。
サトシ 利の裏まで、見とめないと、どうなるのかな?
アツシ 害に気づかず、利に流されて、足を掬われる。
サトシ 賢者に習う、尚賢って、どういうものかな?
アツシ 尚賢とは、理に導かれて、救われることだな。
サトシ 賢者は、苦い言葉にも、臨もうとするのかな?
アツシ そうだな、理の裏側まで、見とめようとする。
サトシ 利の裏まで、認められると、どうなるのかな?
アツシ 害に気づいて、利に流されず、自ら救われる。
サトシ そっか、甘い言葉に、飛び付いてしまうと、
結局、苦い現実にまで、辿り着いていく訳か。
アツシ そうだ、苦い言葉を、噛み締めていければ、
結果、苦い現実にまで、辿り着かなくて済む。
サトシ 深いな、言葉で学ぶのか、現実で学ぶのか、
言葉から、学べる内に、学んだ方が良いよね。
アツシ 言って、解ってくれると、利で釣らずに済む。
サトシ ……………………!!
CASE 尚賢なき尚愚 と 尚愚なき尚賢
サトミ 尚愚と尚賢、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 愚を楽しむ、尚愚って、どういうものかな?
メグミ 尚愚とは、道化を尊んで、道楽を歓ぶものよ。
サトミ 賢を愉しむ、尚賢って、どういうものかな?
メグミ 尚賢とは、導師を貴んで、教導を喜ぶものよ。
サトミ 尚愚を望み、尚賢に臨まないと、どうなるの?
メグミ 尚賢なき尚愚なんて、唯の気軽に過ぎないよ。
サトミ じゃ、深く考えないと、気が軽くなるのかな?
メグミ そうよ、先に延すだけで、後で重くなるけど。
サトミ 尚賢を望み、尚愚に臨まないと、どうなるの?
メグミ 尚愚なき尚賢なんて、只の気重に過ぎないよ。
サトミ じゃ、深く考えるほど、気が重くなるのかな?
メグミ そうよ、前に倒すだけで、後で軽くなるけど。
サトミ 尚愚だけでは、先に延して、負い切れない。
尚賢ばかりでは、前に倒して、追い切れない。
メグミ うん、尚愚と尚賢、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、尚賢を追い、尚愚を負っていくの?
メグミ そうなの、尚愚を究め、尚賢を極めていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 愚 民 主 義
マサシ どうして、君の国には、政治家が居ないの?
善と悪、二種の道化しか、居ないようだけど。
サトシ 君が言う、悪い道化は、どういう人のこと?
マサシ 外国の為に、甘い事しか、言わない者なのさ。
サトシ 君が言う、善い道化は、どういう人のこと?
マサシ 母国の為に、甘い事しか、言わない者なのさ。
サトシ それなら、裏切者にしても、調子者にしても、
歓心を買う、道化しか居ない、ってことかな?
マサシ 甘言を弄して、私腹を肥す、道化ばかりで、
諫言を呈し、国益に尽す、政治家が居ないよ。
サトシ 人気者が、政治家になれる、仕組なんだよ。
選挙で、人気を集めると、政治家になるんだ。
マサシ どうして、政治家の資質を、問わないのかな。
例えば、家族の手術の執刀を、誰に委ねたい?
サトシ もちろん、能力の有る者に、手術を任せたい。
マサシ なのに、国民の手術の執刀を、この国の人は、
人気者に、委ねているんだ、愚かと思わない?
サトシ ううん、おかしくないよ、これで良いんだ。
それより、君の方が煩いよ、人気ないでしょ。
マサシ ……………………
CASE 甘言 の裏に 苦言
マナミ 優しい言葉、甘言って、どういうものなの?
マサシ 甘言とは、幻想に依って、酔わせる言なのさ。
マナミ 人を惑わす、幻想って、どういうものなの?
マサシ 幻想では、楽が有るだけ、苦しみは無いのさ。
マナミ 厳しい言葉、苦言って、どういうものなの?
マサシ 苦言とは、真実に拠って、醒ませる言なのさ。
マナミ 人を覚ます、真実って、どういうものなの?
マサシ 真実では、楽が有るだけ、苦しみも有るのさ。
マナミ たとえ、楽しみしか無いと、夢を語っても、
現実的に、苦しみが現れると、夢が覚めるの?
マサシ そうさ、楽しんだ分、必ず、苦しんでしまう。
遅かれ早かれ、いずれ、この真実に辿り着く。
マナミ この真実を、言ってあげると、苦言になり、
言わずに、酔わせてあげるのが、甘言なのね。
マサシ 甘言は、耳に従がいやすいが、幻想であり、
苦言こそ、耳に逆らいやすいが、真実なのさ。
マナミ う~ん、厳しいけど、これが、真実なのね。
私の為に、これも、言ってくれているのよね?
マサシ そうさ、そうやって、覚めてくれると嬉しい。
マナミ ……………………!!
CASE 甘言 の先に 苦言
サトミ 耳に従がう、甘言って、どういうものかな?
メグミ 甘言とは、好い事を言う、聞き易い言なのよ。
サトミ 甘言が、耳に叛かないのは、どうしてなの?
メグミ 甘言ほど、徳が崩されて、欲に従がうからよ。
サトミ 欲を持って、耳を傾けると、どうなるのかな?
メグミ 器に入らない、厳しい現実に、襲われるのよ。
サトミ 耳に逆らう、苦言って、どういうものかな?
メグミ 苦言とは、嫌な事も言う、聴き難い言なのよ。
サトミ 苦言が、耳に順わないのは、どうしてなの?
メグミ 苦言ほど、得が壊されて、欲に逆らうからよ。
サトミ 徳を以って、耳を傾けると、どうなるのかな?
メグミ 器に収さまる、厳かな現実に、包まれるのよ。
サトミ つまり、甘言に流されると、器が小さくなり、
逆に、苦言を重んじると、器が大きくなるの?
メグミ そうよ、言葉が甘いと、現実が難しくなり、
逆に、言葉が厳しいほど、現実が易しくなる。
サトミ そっか、苦言から逃げずに、立ち向った方が、
少しずつ、器が広がって、自然に優しくなる。
メグミ これは、甘言かな苦言かな、どっちだと思う?
サトミ ……………………!!
CASE 甘言 という 苦言
サトシ 幻想を説く、甘言って、どういうものかな?
アツシ 甘言とは、幻想を騙って、真実を隠すことだ。
サトシ 甘言が示す、幻想とは、どういうものなの?
アツシ 幻想とは、否定を重ねて、歪み切ったものだ。
サトシ 真実を説く、苦言って、どういうものかな?
アツシ 苦言とは、真実を語って、幻想を解くことだ。
サトシ 苦言が示す、真実とは、どういうものなの?
アツシ 真実とは、肯定を重ねて、直り切ったものだ。
サトシ たとえ、逃げ出しても、いつか追い付かれる。
幻想から、真実に覚める、時が来るってこと?
アツシ 甘言は、その時を引き延ばす、幻想であり、
苦言こそ、その刻を引き寄せる、真実なのさ。
サトシ う~ん、僕は既に、その時が来てしまった。
アツシ 幾らでも、否定して、夢を見ても良いんだぞ。
サトシ もしかして、それって、甘言のつもりかな?
もはや、僕には、諫言にしか、聞こえないよ。
アツシ いや、俺が、間違っている、かもしれないぞ。
サトシ それも、甘言という苦言にしか、聴こえない。
アツシ それなら、認めた方が良いな、今がその刻だ。
サトシ ……………………!!
CASE 苦言なき甘言 と 甘言なき苦言
サトミ 甘言と苦言、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 幻想を言う、甘言って、どういうものかな?
メグミ 甘言とは、気が後れない、幻想を語ることよ。
サトミ 真実を言う、苦言って、どういうものかな?
メグミ 苦言とは、気が進まない、真実を語ることよ。
サトミ 甘言を望み、苦言に臨まないと、どうなるの?
メグミ 苦言なき甘言なんて、気休めに過ぎないのよ。
サトミ じゃ、幻想を説いても、真実を解かないの?
メグミ いずれ、現実に追われて、気が病んでしまう。
サトミ 苦言を望み、甘言に臨まないと、どうなるの?
メグミ 甘言なき苦言なんて、気後れに過ぎないのよ。
サトミ じゃ、真実を解いても、幻想を説かないの?
メグミ いつも、現実を負わされ、気が疲れてしまう。
サトミ 甘言だけでは、気を休めて、気が病むだけ。
苦言ばかりでは、気が疲れて、気が後れるの?
メグミ うん、甘言と苦言、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、苦言を感じ、甘言を観じていくの?
メグミ そうなの、甘言を介し、苦言を解していくの。
サトミ ……………………!!