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物語編

第二章 第五二話 物語編

第二章    権利   と   権力
第五二話 私の利を守る と 公の利を護る

 

激昂の表情を見せても、未だ彼は冷静だった。
事変の本質を見抜くまでは、武力は用いるまいと、
結界に潜り込んでいたことは、君も解かっていよう。

 

法徳は、強権を用いることなど、滅多に無い。
しかし、いざ発動するとなれば、容赦なく用いる。
その境は、明瞭にして極端、彼の逆鱗は深くて重い。

 

彼は、義務を果している限り、権利を与える。
一方、権利を訴えている限り、権力に与らせない。
権利は私利を守るもので、権力は公利を守るものだ。

 

即ち、私利に囚われて、公利が失われるとき、
彼は、躊躇なく、権利を放棄し、権力を行使する。
君が居合わせたのは、まさに、そういう瞬間だった。

 

確かに、彼にとって、才は、愛しむべきもの。
しかし、民にとって、害ならば、惜しむべからず。
そうだ、法徳は、君の師の才を、迷わず葬り去る。

 

力に訴えたのは、道を外している、と思うか。
いいえ、彼の行いは、すべて民を想ってのもの。
師の教えも正しかったが、彼の考えも正しかったか。

 

そのとき、遠くの方で、隠った鐘の鳴る音が響いた。

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