物語編
第二章 第五三話 物語編
第二章 実業 と 虚業
第五三話 才で財を得る と 財で財を得る
内に築き上げられた信念が、音を立てて崩れていく。
「私は、知ってはならなかった、かもしれない。
師の教えと彼の考えを、等しく知ってしまった今、
何が正しく、何が正しくないか、分からなくなった。」
「表しか知らないと、それに酔っていられるが、
裏まで知ってしまうと、もはや酔っていられない。
ああ、真実など、誰も知りたくない、かもしれない。」
「無邪気に大義を掲げた、昔の自分が恨めしい。
天下に絶対の法はなく、在るのは相対の法ばかり。
それを受け容れることが、唯一残された絶対の徳か。」
落ち込む私を見て、彼は、不可解な事を言い始めた。
〈良い感じだ、核心に近づいて来たじゃないか。
しかし、この分では、本心を悟り切れてはいない。
完全に悟り切れたなら、悔恨の情は現れないからだ。〉
〈つまり、まだ、君は、知と行が一致してない。
考えていることと、話していることに、隙がある。
残された時は少ない、最後に、これを埋めてみよう。〉
まだ、崩さないといけないと、彼は、密かに呟いた。