物語編
第三章 第十六話 物語編
第三章 生起 と 滅尽
第十六話 果報が現れる と 果報が消える
それは、脅迫のつもりかと、彼は、両の目を細めた。
『我が法の支配も、煩悩に過ぎないと言うのか。
この私が、如何に法を修め、如何に法で治めたか、
それを、見聞きした上の、それは言い草であろうな。』
「然り、王が、如何に修めて、如何に治めたか。
その法に、捕われた私は、それを良く知っている。
しかし、それゆえに、私が、これを伝える要がある。」
「賢き王よ、美しい法を、布いた事は疑わない。
しかし、その鋭い法が、私情に歪められて久しい。
積み上げた法が、罪を重ねる業に、成り下っている。」
「確かに、懸命なる王は、生と死の法を求めた。
しかし、徒に応えない、無礼な師を見ている内に、
代え難い法を捨てて、越え難い業に変えてしまった。」
『君の師を殺めた、それを、咎めているのかね。』
「否、生まれたものとは、即ち、滅びていくもの。
もはや、私は、滅びていくことに、囚われていない。」
「逆に、囚われないから、言わないとならない。
実に、生起と滅尽の諦らめ、これぞ、生と死の法。
我が師に代り、王に説く為に、私は生まれ変わった。」