物語編
第六章 第五九話 物語編
第六章 請願 と 誓願
第五九話 願って適える と 誓って越える
翌朝、手の届かない所から、事は始まっていた。
人々は、神の子を捕まえ、国王の所に引き渡した。
有罪に処し、十字架にとは、義憤の為せる業である。
『諸君、私は、昨晩、不思議な夢を見せられた。
君たちは、認めたくないだろうが、彼に罪は無い。
彼を許すことは、出来ないか、我がたっての願いだ。』
彼の冷静な物言いが、却って、彼らの逆鱗に触れた。
〈我らに対する侮辱は、実に、神に対する冒涜。
我らこそ、神に選ばれし民、神と契約を交わし者。
神の子を騙る者に神罰を、神の名の下に神の制裁を。〉
彼は、君たちは如何なのかと、言い掛けて辞めた。
彼らは、自らを振り返る知恵を、持ち得て無かった。
『彼を殺めれば、末代まで、君らは危められる。
それでも良いのか、国は滅び、悲運を呪うだろう。』
〈構わない、この血の責は、我らと、我らが子孫に。〉
彼らは、何を言っているのか、分かっていない。
一時の猛りに任せたため、永遠の怒りに苛むなど、
幼い彼らの、誰一人として、分かってはいなかった。