物語編
第一章 第二六話 物語編
第一章 痴 と 知
第二六話 思いのままに と 在りのままに
扉を開けると、異様な光景が、眼前に広がった。
白い服を着た者たちが、奇怪な呪文を唱えながら、
一斉に、聖域に侵入した、不審者の方を振り向いた。
魔を振り祓う、視線と呪文が、私に突き刺さる。
神聖を畏れない、悪魔の如くに、見做されたのか、
生贄の信者が、決死の形相で、我が意を探りに来た。
私は、老師と話がしたいと、本心を明かしたが、
老師が、己の如き若輩を、相手にする訳がないと、
容易には、取次いで貰えず、本音だけを明かされた。
世間の人から見たら、主は只の人に過ぎないが、
教団の信者から見たら、師は雲の上の存在だろう。
外界に馴染んでいた私は、主を軽く見ていたようだ。
たとえ、若さに訴えようと、熱さに訴えようと、
彼らには、全く通じないのは、既に解かっている。
此処で、外を繰り返しても、此処が外になるだけだ。
曲りなりにも、知恵の実を求め、集った者達だ。
知恵という、共通の地に立ち、対立することなく、
如何にか、分かり合えることは、出来ないだろうか。