物語編
第一章 第二七話 物語編
第一章 無知 と 愛知
第二七話 知が無いこと と 知が有ること
私が、外に傾いた思いを、中に傾け重んじると、
相手は、明きらかな敵意が、私に無い事を見とめ、
知恵を求める、入門者として、次なる部屋に導いた。
扉の先には、赤に彩られた空間が広がっていて、
その中央には、赤い衣の者が蓮華座を組んでいた。
その眼光は鋭く、些か挑発的な目で相手を凝視する。
私が挨拶を試みると、そんな形式が何になると、
私が何を知っているか、矢継ぎ早に尋問して来た。
彼の甲走った早口は、早回しに聞え、心に響かない。
それでも、意を注いで、私に聞き取れたものは、
私が知らないことを、彼は知っているということ。
更に、そのこと自体を、彼が誇っていることだった。
この者は、知識の多少で、知恵を判断する者か。
確かに、彼は知識の量では、群を抜いていようが、
自分が興味がないことは、まるで知らない、無知だ。
このものは、知らないかと、尋ねようものなら、
そんなものは、詰まらないと、知ろうともしない。
逆に、これなら、知ってまいと、相手の無知を探す。
我が知が偏る不安を、他の無知を論い安心する。
斯くなる地に止まっては、永遠に安心は訪れまい。
私は、心から敗北を認めて、自らの無知を見とめた。