物語編
第一章 第二九話 物語編
第一章 無智 と 愛智
第二九話 智が無いこと と 智が有ること
私から見ても、結論が、見えてしまう訳だから、
本人から見ても、当然に、見とめている事だろう。
時折、彼が見せる、悲しい眼差しに、限界を察する。
確かに、彼は、自らの世界を美しく説くだろう。
彼の描く世界は、美しくはあるが、鎖されていて、
無限に開かれた未知、彼から、生が伝わって来ない。
自分が捕らわれる、仮初の世界に縛られていて、
因と果で塗り固めた、堅固な体系に捕われている。
この瞬間に、その世界観を破壊する、気軽さが無い。
人は、知れば知るほど、苦しくなるのだろうか。
我々は、解せば解すほど、捕らわれるのだろうか。
知恵など求めず暮した方が、幸せなのではないのか。
彼に限らず、この教団の者たちは、現実を嘆き、
過去から続く、因果の連続性の中で、不運を呪い、
言葉巧みに、自身の罪を社会の責任に、摩り替える。
私は、在りのままに臨む、知恵を求めていたが、
その実、思いのままを望む、幻想を抱いていたか。
知恵の実、その禁断の所以は、こういう意味なのか。