物語編
第一章 第三二話 物語編
第一章 直感 と 直観
第三二話 因縁を感じる と 因縁を観じる
私から見るなら、思考は回り続けていたのだが、
傍から見ていたら、意識が吹き飛んでいたようだ。
彼は、気は確かかと、私の両肩を優しく揺さ振った。
彼の目には、他の者に、決して見られなかった、
少しの慈しみと、多くの悲しみが、見受けられた。
ここまで、追い込まれなければ、優しい性根だろう。
大悲を宿した目は、私と同じ物を見ている筈だ。
この教団は、もう長くはないことを、認めている。
如何して、老師が過酷な使命を課すか、解っている。
彼となら、話し合えば、未来が変わりそうだが、
如何しても、この運命を、彼は受け容れるようだ。
諦める悲しみ、それ以上の悲しみが、彼の目に映る。
大いなる悲、老師の本性が、世間に伝わるのか。
理屈を捏ねて、弁護しようと、断じて伝わるまい。
そういう次元を、遙かに超えた、使命に生きている。
彼が慢を越えていれば、その役を果たすだろう。
彼に驕りが残っていれば、その命は尽きるだろう。
この教団の命運は、彼の両肩に掛かっているようだ。
その天命に、敬意を示し、私は去ることにした。
老師には、会えなかったが、その要もなくなった。
ここは、美しく完結して、私が添える物は何も無い。