物語編
第一章 第三三話 物語編
第一章 型 と 形
第三三話 形が生まれる と 型が埋まれる
清々しさに満たされ、私が扉を出ようとすると、
不意を突かれたか、視界の外から呼び止められた。
その声の方を見ると、白い服の老婦人が呼んでいる。
[その涙は、泣いているのかい、笑っているのかい。]
「婆様、実に面白いことを、ここで悟りました。
知恵の実を望みましたが、その妙味は囚われない。
そんな実に臨めますか、その途端に捕われてしまう。」
「たとえ、何処まで行こうと、総て自分であり、
自分からは、逃れられない、常に自分の掌の上だ。
喜怒哀楽を映す、鏡の中にこそ、我々は生きている。」
これを聞くと、顔の皺を倍に増やし、彼女は喜んだ。
[私は、長い間、扉を守る役を、負っているが、
去る者は、およそ、泣いているか、怒っているか。
ここを、笑いながら、去る者は、あんたが初めてだ。]
[ここを、笑いながら、出て行く者が居たなら、
連れて来るようにと、老師から言い付かっている。
誰一人として現れない、もう来ないと諦めていたが。]
[最後の最後に、最高の型が、出来て良かった。
神の仕組みは、何時だって、土壇場で出来上がる。
天は予断を、許さないが、老師は見えていたのかね。]