第一章 第五七話 対話編
CASE 善 の裏に 悪
マナミ 良くなること、善って、どういうものなの?
マサシ 善とは、欲を持っていると、良くなることさ。
マナミ 飽くなること、悪って、どういうものなの?
マサシ 悪とは、欲を以っていると、悪くなることさ。
マナミ 欲を持つと、善と悪は、同時に生じてきて、
欲を捨てると、悪と善は、同時に滅していく?
マサシ 欲を持つと、良くもなるが、飽きもするし、
欲を捨てると、良くもないが、飽きもしない。
マナミ そうすると、裏に悪の無い、善なんて無い。
飽かない良く、そんなものは、何処にも無い?
マサシ うん、欲を持つと、良くなろうとするけど、
いずれ、限界が来て、飽くことになるわけさ。
マナミ もし、限界が無ければ、ずっと良くなるの?
マサシ ううん、誰にでも、自我という器があるから、
必ず、遅かれ早かれ、限界を迎えてしまうよ。
マナミ じゃあ、器が無ければ、飽くに臨まないの?
マサシ そもそも、我が無ければ、良くを望めないよ。
マナミ つまり、欲を持たない、空の器になるのかな?
マサシ うん、善にも悪にも映る、大自然そのものさ。
マナミ ……………………!!
CASE 善 の先に 悪
メグミ 実はね、自我が生まれて、善悪が産まれたの。
サトミ それなら、自然のままなら、善悪はないわけ?
メグミ そうよ、自我に造られる、主観的なものよ。
サトミ そうかな、自然に作られる、客観的なものよ。
メグミ じゃあ、あなたから見て、善いことは何かな?
サトミ たとえば、金を拾うことは、善いことだよ。
メグミ それは、金を落したものには、悪いことだね。
サトミ それなら、和を保つことは、善いことだよ。
メグミ それは、和に飽きたものには、悪いことだね。
サトミ それなら、世を救うことは、善いことだよ。
メグミ それは、世を統べるものには、悪いことだね。
サトミ それじゃ、誰からも善いものは、無いのかな?
メグミ たとえ、誰かから見ていると、善く感じても、
他の、誰かから見てみると、悪く観じるのよ。
サトミ う~ん、善悪の見え方は、相対的なものなの?
メグミ うん、絶対的な善悪なんて、何処にも無いの。
サトミ じゃあ、絶対の善なんて、探さない方が良い?
メグミ どんどん、探しても善いの、それも善だから。
むしろ、良く探して来るほど、良く解かるよ。
サトミ ……………………!!
CASE 善 という 悪
マナミ いつも、善が生まれると、悪が埋まれている。
いかなる、悪なき善もなく、善なき悪もない。
サトミ 善ばかりで、悪などない、世界なんて無いの?
マナミ そうなの、残念だけど、何処を探しても無い。
サトミ 例えば、天国なんて、善ばかりじゃないの?
マナミ その裏が、地獄になり、悪ばかりになるけど。
サトミ じゃあ、天国が生まれて、地獄が埋まれるの?
マナミ うん、善だけ見るため、悪を隠してしまうの。
サトミ う~ん、絶対の善なんて、存在しないのかな?
マナミ そうなの、残念だけど、何処を探しても無い。
サトミ う~ん、そう考えるのは、あんただけでしょ。
真面目に、探している人は、見つかると思う。
マナミ もしかして、あなたが、そこまで言うのは、
わたしが、隠していると、想っているのかな?
サトミ そうよ、意地悪だから、隠しているんでしょ。
マナミ それって、絶対的な善を、生み出そうとして、
相手の中に、絶対的な悪を、埋め込んでない?
サトミ う~ん、そう言われると、そんな気もする。
マナミ うん、そうでもしなければ、見つからないの。
サトミ ……………………!!
CASE 悪のない善 と 善のない悪
サトミ 善と悪、どちらの方を、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 良くなるもの、善って、どういうものかな?
メグミ 善とは、欲を持って、良い面を望むことだよ。
サトミ 飽くなるもの、悪って、どういうものかな?
メグミ 悪とは、欲を以って、悪い面に臨むことだよ。
サトミ 善を重んじて、悪を軽んじると、どうなるの?
メグミ 悪のない善なんて、単なる小善に過ぎないよ。
サトミ じゃ、悪を知らない、善なんて善くないの?
メグミ そうよ、悪を包まない、善なんて痴れている。
サトミ 悪を重んじて、善を軽んじると、どうなるの?
メグミ 善のない悪なんて、単なる小悪に過ぎないよ。
サトミ じゃ、善を知らない、悪なんて悪くないの?
メグミ そうよ、善を装わない、悪なんて痴れている。
サトミ 善だけでは、飽くまでは、良くならないし、
悪ばかりでは、良くならず、飽くまでもない。
メグミ そうよ、善と悪、その両方が、必要になるの。
サトミ じゃ、善を望みながら、悪に臨んでいくの?
メグミ うふっ、善を介しながら、悪を解していくの。
サトミ ……………………!!