物語編
第二章 第三話 物語編
第二章 無 と 有
第三話 有を繰り返す と 無を折り返す
彼は、優しく子を諭すが如く、静かな怖さで語る。
『師に対する情が半分、世に対する恨みが半分。
斯くも、師を危めている、余を憎らしく思えるか。
数分前に、軽口を叩いた仲には、もはや戻れないか。』
『斯くも、宗教というものは、恐ろしいものよ。
色恋沙汰も、愛憎が究められて、刀傷沙汰となる。
宗教では、そこに自尊が加わって、更に性質が悪い。』
『法を望む拘りが八分に、我に臨む誇りが二分。
他の者より、遥かに軽いが、自尊心を操られたか。
それにしても、ものの数分よ、老子も大した者だな。』
『貴様、先刻、俺が言った事を、覚えているか。
俺は、試金石として、貴様を送り込むと言ったが、
こうして、帰って来た贈り物に、些か失望している。』
『このように、貴様が、愛憎に溺れたいのなら、
貴様自身が、愛する師を、殺める事になるだろう。
無垢な若者を、惑わした罪、貴様こそが生き証人だ。』
『三分間、待ってやる、善悪を知る、前に返れ。
そして、老子に誘われて、貴様が悟り得たことを、
型として、何ら偽る事なく、天下に知らしめてみよ。』