物語編
第二章 第五話 物語編
第二章 愚 と 賢
第五話 同じて和せず と 和して同ぜず
「内からも、外からも、厳重に警戒されていて、
如何して、内と外を、自由に行き来が出来たのか。
世間の者は中に入れず、教団の者なら外に出れまい。」
まあ、普通ならそうだなと、笑いながら彼は言った。
『俺には、絶対という、思い込みが無いからだ。
その点、貴様と似ている、だから、興味を持った。
貴様は無だったが、強いて違いを言えば、俺は空だ。』
『例えば、中に入るとき、間者か確められたが、
俺なら、躊躇しないで、主君の肖像を踏み躙れた。
何故なら、実体がないと、俺は見とめているからだ。』
『例えば、外に出るとき、信者か調べられたが、
俺なら、容赦しないで、老子の彫像を打ち壊せた。
何故なら、因縁がないと、俺は見抜いているからだ。』
『愚か者を騙すが如き、単なる嘘では通じない。
何故なら、人は騙せても、自らは騙せないからだ。
心の底から、認めなければ、決して空にはならない。』
『貴様は、信者でも無ければ、間者でも無いが、
俺なら、弟子でも良ければ、指揮官でも良かった。
空を悟る、賢者にとって、次元の壁は無きに等しい。』