物語編
第二章 第十四話 物語編
第二章 勝 と 負
第十四話 価値を伝える と 価値を求める
『安心しろ、もとより、我が君は酷薄ではない。
慈悲深き仁君であり、無条件に民を慈しみ愛する。
民の敬愛を一身に集め、社稷を祀り、人民に報いる。』
『俺も、法を守る者には、寛容を以って接して、
それ故に、法を破る者には、辛辣を持って接する。
たとえ、信者であろうが、法を守る限りは法で護る。』
『どうだ、我が君の前で、全てを話す気になったか。』
私は、彼の言に対して、強い違和を感じていた。
彼の軸は、常に彼にあり、他の者に委ねていない。
それ故、度々出て来る、我が君の言葉が実に虚しい。
あたかも、私が、教団の中で、浮いていた如く、
社会の中で、彼は、超然とした、存在なのだろう。
すなわち、世間に属しながら、巷間に縛られてない。
にもかかわらず、偶々、自らが生れ落ちた世界、
その法に合せるばかりか、布く側へと回っている。
自らは法が解けているのに、他には法を説いている。
それでいながら、決して無感動に生きていない。
彼が君を敬う思い、民を慈しむ想いは嘘ではない。
民の情を重んじるからこそ、彼は非情に徹している。