物語編
第二章 第十六話 物語編
第二章 法家 と 儒家
第十六話 法が説かれる と 仁が解かれる
たちまち、彼の表情から、余裕が消えて行った。
不意に、自分と同じ土俵に、乗り込んできた私に、
彼は、生まれて初めて感じる、焦りを覚えて奮える。
しかし、ものの数秒で、いつも通りの彼となり、
その場に、誰が居るのか、冷静に確かめて言った。
『面白い奴め、本気で殺したくなった、最初の男だ。』
そして、透き通った声で、高らかに笑い出した。
無邪気に笑う、場違いな笑顔が、不気味に美しい。
一頻り笑った彼は、威厳に充ち満ちた、声で叫んだ。
『この者は、不用意に、我が仮面を剥ぎ取った。
何のための覆面か知らず、無邪気な子供のように。
無礼な子供は、礼義を尽し、躾けなければならない。』
『彼は、狂信者ではないが、狂気を帯びている。
君たちは、彼と話しても、百害あって一利なしだ。
ここは、人払いをする、各自、任務を果たすが良い。』
彼は、誰も居なくなってから、私の方を振り向いた。
『完璧を崩して遊びを作る、それが我が流儀だ。
遊びに誘ったのは俺だが、遊びを奪ったのは君だ。
真剣を向けられた以上、遊び以上に楽しませて貰う。』