第二章 第十六話 対話編
CASE 法家 の裏に 儒家
マナミ 法を説く者、法家って、どういうものなの?
マサシ 法家とは、悪の性の者を、律で誘う者なのさ。
マナミ 法家が示す、法律って、どういうものなの?
マサシ 法律では、法で善を勧め、律で悪を罰すのさ。
マナミ 悪人を、法律を持って、善人まで育てるの?
マサシ うん、放って置けば、独善を積み重ねている、
性悪は、法律を説いて、性善に生れ変らせる。
マナミ いつ迄も、悪に捕われたら、いけないのかな?
マサシ そうさ、他に悪を為せば、自らの善が減るよ。
マナミ 仁を解く者、儒家って、どういうものなの?
マサシ 儒家とは、善の性の者を、徳で導く者なのさ。
マナミ 儒家が示す、仁徳って、どういうものなの?
マサシ 仁徳では、仁で善を与え、徳で悪を許すのさ。
マナミ 善人を、仁徳を以って、真人まで育てるの?
マサシ うん、放って置けば、至善を積み重ねている、
性善は、法律を解いて、自然に生れ変らせる。
マナミ いつ迄も、善に囚われたら、いけないのかな?
マサシ そうさ、他の悪を憎めば、自らが悪に堕ちる。
それゆえ、このように、人を育てる側に回る。
マナミ ……………………!!
CASE 法家 の先に 儒家
サトミ あのね、人々を育てるには、どうするのかな?
メグミ うん、悪人と善人に分け、段階的に育てるの。
サトミ 放って置いたら、悪を為す人は、どうするの?
メグミ 自ずから、悪を好み、善を嫌う人々だから、
悪を懲らし、善に勧む、法を説く必要がある。
サトミ 悪い性の人に、徳を解く、必要は無いのかな?
メグミ 悪い人って、徳を嘲うから、悪い人なのよ。
法を説かずに、徳を解いても、徳が笑われる。
サトミ 放って置いたら、善を為す人は、どうするの?
メグミ 自ずから、善を愛し、悪を憎む人々だから、
悪を許して、善を譲る、徳を解く必要がある。
サトミ 善い性の人に、法を説く、必要は無いのかな?
メグミ 善い人って、法に拘るから、善い人なのよ。
徳を解かずに、法を説いても、法に縛られる。
サトミ いつまでも、法に捕らわれたら、いけないの?
メグミ 法に拘り、法を守らない人を、憎んでしまう。
ずっと、悪を憎んでいたら、徳を培えないよ。
サトミ でも、法を捨てるなんて、あたしは出来ない。
メグミ うふっ、真面目な善人ほど、法を解けないね。
サトミ ……………………
CASE 法家 という 儒家
サトシ 世の人は、どのように、育てるべきなのかな?
マサシ 悪人に、法を説いて、悪を削がせるべきで、
善人には、仁を解いて、善を譲らせるべきさ。
サトシ 悪人に説く、法家の法は、どういうものかな?
マサシ 善を勧め、悪を懲らし、善人に育てるものさ。
サトシ 善人に解く、儒家の仁は、どういうものかな?
マサシ 悪を許し、善を譲らせ、真人に育てるものさ。
サトシ 悪人に、仁を解かないのは、どうしてかな?
マサシ 悪い人が、悪を許したら、悪に留まるだけだ。
サトシ つまり、悪で在り続け、悪が善に育たないの?
マサシ うん、善を憎む悪として、小悪を侵すはずさ。
サトシ 善人に、法を説かないのは、どうしてかな?
マサシ 善い人が、善を勧めれば、善に止まるだけだ。
サトシ つまり、善で在り続け、善が徳に育たないの?
マサシ うん、悪を憎む善として、大悪を犯すはずさ。
サトシ ある程度、善を積めたなら、善を離れるべき?
マサシ そうさ、積み続けるなら、詰んでしまうよ。
サトシ まだ、善を味わえない人に、譲るわけなのか。
マサシ まさに、こうして、法を解き、徳を積むのさ。
サトシ ……………………!!
CASE 儒家 という 法家
サトシ 仁を重んじ、法を軽んじると、どうなるかな?
アツシ 漠然たる、法のない仁など、空ろな愛だろう。
理想を追い、現実を負わない、空想家になる。
サトシ どうして、理想を掲げても、十分じゃないの?
アツシ それは、善人は仰いでも、悪人は嘲うからだ。
悪い性を、削ぎ落とすには、法で斬るべきだ。
サトシ 法を重んじ、仁を軽んじると、どうなるかな?
アツシ 厳然たる、仁のない法など、虚ろな法だろう。
理論を追い、実感を負わない、虚構家になる。
サトシ どうして、理論を示しても、充分じゃないの?
アツシ それは、外が変わっても、内が換らないから。
善い性を、乗り越えるには、悪を愛すべきだ。
サトシ つまり、法に囚われて、愛が冷える位なら、
法を捨て、愛を与えよと、そういうことかな?
アツシ その通りだ、愛が無いから、法が要るわけだ。
裏を返すなら、愛が有るなら、法は要らない。
サトシ そっか、法とは、愛に辿り着く、手段なのか。
アツシ ああ、法で治めなければ、愛を修められない。
しかし、愛を法で説いたら、虚構に過ぎない。
サトシ ……………………!!
CASE 儒家なき法家 と 法家なき儒家
サトミ 法家と儒家、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 法で育てる、法家って、どういうものなの?
メグミ 法家とは、悪人を善人に、法で誘うものだよ。
サトミ 徳で育てる、儒家って、どういうものなの?
メグミ 儒家とは、善人を真人に、徳で導くものだよ。
サトミ 法家を望み、儒家に臨まないと、どうなるの?
メグミ 儒家なき法家なんて、法が分からなくなるよ。
サトミ じゃ、法を説きながら、法を解かないのかな?
メグミ そうよ、法に捕らわれて、業に堕ちていくよ。
サトミ 儒家を望み、法家に臨まないと、どうなるの?
メグミ 法家なき儒家なんて、徳が分からなくなるよ。
サトミ じゃ、徳を解きながら、徳を説かないのかな?
メグミ そうよ、徳を捉えられず、欲に落ちていくよ。
サトミ 法家だけでは、法を持って、法を貶めるし、
儒家ばかりでは、徳を以って、徳を辱めるの?
メグミ うん、法家と儒家、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、法家が説き、儒家が解いていくの?
メグミ そうなの、法家を超え、儒家を越えていくの。
サトミ ……………………!!