物語編
第二章 第十七話 物語編
第二章 法治 と 徳治
第十七話 原則を治める と 例外を治める
次の瞬間には、彼の表情から、遊びが消えていた。
厳しい施政者の顔となり、対する被疑者を見据える。
『改めて言っておく、我が問に偽りなく答えよ。
もし、戯れを申すなら、貴様の論と共に命を絶つ。』
「承知した、我が身命を懸けて、世の真実を語ろう。」
『人は、責任を果たす限り、自由が与えられる。
名を申せ、名を持たない者の、証言は許されない。』
「名は無い、好きな名を付けよ、自らが責を取ろう。」
『良かろう、名が無いという、名を持つものよ。
明かすが良い、この岩戸の中で、何が起きたのか。』
「師と真理を修めていた、世に真理を伝えるために。」
『人は、礼義を弁える限り、大義を掲げられる。
にもかかわらず、師は捕えられた、それは何故か。』
「その言を手繰るなら、責任を果さなかったからだ。」
『この国に住む限り、この国の法は守るべきだ。
だがしかし、師と交わる者は、法を軽んじ始める。』
「当然だろう、天なる法は、人の法を軽く凌駕する。」
『貴様もか、死と交わる者、誰もがそう言った。
殻に篭り、無為を衒った、醜く老いた永遠の童子。
生きもせず、死にもしない、弁のみ達者な隠者共め。』