物語編
第二章 第二三話 物語編
第二章 下策 と 上策
第二三話 敵を背にする と 敵の背にいく
『虚言を弄するなと、予め告げておいたはずだ。
君が説いた法は、師を救いたいだけの、心の理か。
師を越えて広がる、世を救いうるだけの、真の理か。』
『前者だとすれば、それは、とんだ思い違いだ。
君の言い分けは、君の師の死を、早めたに過ぎん。
揺れる心情で、覆る信条など、根絶するに相応しい。』
『後者だとすれば、それは、やんごと無き事だ。
師は命を賭して、自らの使命を、果したに等しい。
肉体は朽ちようと、老子の精神は、天下に広がろう。』
師の言う通りに、この場を立ち去っていたなら、
斯くの如き選択を、突き付けられなかったはずだ。
しかし、私らしさが、この場を引き寄せてしまった。
彼の口上が、さながら、師の説教の如く聞える。
私が観とめない師に、非を責められているようだ。
私が思い上らなければ、師を危めることはなかった。
『さあ、答えよ、どちらを選ぶか、明らかにせよ。
師に殉じて師と死ぬのか、師を越えて師を活かすか。』
殉教するのも適わない、裏切ることも敵わない。
次の瞬間、私は、運命の選択から逃げ出していた。
無様だ、私の背に、嘆息の混じる悲しみの声が届く。