物語編
第二章 第二八話 物語編
第二章 吉 と 凶
第二八話 何か良くなる と 何か悪くなる
「思い上ろうにも、既に、打ち砕かれています。
私に要るのは、積み上げるより、掘り下げること。
是が非でも、我が愚の在り処、解き明かして下さい。」
〈どうした、私が知っている、君らしくないな。
猛る思いに任せて、論で組み伏そうとしないのか。
彼に向って行ったように、私に向かって来ないのか。〉
「過ちを省みることなく、同じ罪を繰り返せば、
我が師の命を賭けた教えも、無駄になるでしょう。
師の死を悼むと共に、師の法に返りたいと思います。」
〈それは、己の無智を恥じたい、ということか。〉
「はい、思えば、師の教えは、これに尽きていた。
無智の智を得意げに語った、自らの無智を恥じたい。」
しばらく、私の様子を見た後に、彼は、こう言った。
〈すべてが徒となった、わけではないようだな。
過ちを改めない、これを、すなわち、過ちと言う。
きっと、師も、君の改心を、祝福してくれるだろう。〉
〈実に、このように、禍福とは糾える縄の如し。
痴に覆われた者は、このことが、分からなくなる。
実は、これこそ、君の愚の在り処、そのものだった。〉