物語編
第二章 第二九話 物語編
第二章 得 と 損
第二九話 誰か得をする と 誰か損をする
驚きを隠せない、私を見ながら、彼は、話を進める。
〈驚く事はない、偶然ではなく、必然のことだ。
人の心は、最も囚われた処で、最も挫け易くなる。
思えば、師の法の伝え方も、これを用いた法だった。〉
「すべては偶然ではなく、すべてが必然ならば、
何処から予め組まれた、師の遺志だったのですか。
私が尋ねた所からですか、私が訪ねた処からですか。」
思い出したかのように、綺麗に笑うと、彼は言った。
〈焦らなくとも、それは、いずれ分かるだろう。
そのためにも、いま解かるべきは、それではない。
いま分かるべきは、吉と凶は、総じて零であること。〉
〈先に良い事が起これば、後に悪い事が起こる。
悪い事があることなく、良い事があることはない。
何かの吉とは、何かの凶の裏にあると、知るべきだ。〉
〈或る誰かが得をすれば、他の誰かは損をする。
誰もが損することなく、誰かが得することはない。
誰かの得とは、誰かの損の裏にあると、知るべきだ。〉
〈にもかかわらず、君は、夢の如き得を説いた。
得をするだけで、損することがない、偽りの阿り。
得のみ納める偽りの仁が、徳を修められる訳がない。〉