物語編
第二章 第三一話 物語編
第二章 智 と 徳
第三一話 是非を分ける と 是非を合せる
何も言えないでいる私を見て、彼は、静かに言った。
〈どうだ、君が、彼に負けたのも、当然だろう。〉
「はい、わたしは、無知なるがゆえに、甘すぎた。
自らに甘く、周りに甘く、世の中を舐め過ぎていた。」
〈人は、知らないと、大きなことを言うものだ。
大きな得を求めるなら、大きな損を受けてしまう。
知ろうとしない、若気の至り、君も、それに躓いた。〉
「人の心を修めて、人の世を治める、天の使命。
我が徳をすれば、それを果せると、疑わなかった。
目が覚めれば、何の事はない、我が器は惨めなもの。」
〈人は、行わないと、尤もなことを言うものだ。
大きな損を避けるから、小さな得に甘んじている。
行おうとしない、老気の翳り、君も、それに躓くか。〉
〈すなわち、君は、殊勝なことを言い始めたが、
何の事はない、また、別の夢に逃げ始めただけだ。
何も変わっていないと、未だに解っていないようだ。〉
〈いいか、諦めてしまうには、未だ若すぎるし、
君の中には、明めてないものが、未だ眠っている。
分かる処まで進むがいい、そうすれば、道は開ける。〉