物語編
第二章 第三六話 物語編
第二章 名 と 実
第三六話 外に見える形 と 内に具わる型
〈そもそも、絶対的な勝利など、何処にも無い。
それゆえ、価値の無い処に、価値を生み出すには、
其処に勝ちがあると、思い込ませなければならない。〉
「それが、彼の徳の為せる業、と言うのですか。」
〈然り、法徳の威徳により、人々は価値を信じた。
小人は得を求めて、大人は徳を求めて、彼に倣った。〉
「悲惨ですな、何も変わっては、居りますまい。
たしかに、虚無に浸ることは、悲しいものですが、
だからとて、狂信に陥ることは、惨めなものですな。」
〈然り、だからこそ、彼は地に足を付けさせた。
小人には得を見とめて、大人には徳を認めながら、
決して虚に陥らないよう、実のある厳しさで鍛えた。〉
〈実を与えず、名を売ることが、悪いのであり、
実に応じた、名を得ることは、悪いことではない。
それこそ、実を売り、名を得る、これが道理である。〉
「彼に、騙されているだけでは、ありませんか。」
〈そういう君に、彼は、まず、得を与えるだろう。
彼が優れているのは、こうして、現実に導くことだ。〉