物語編
第二章 第三九話 物語編
第二章 才 と 材
第三九話 人の徳の表れ と 地の徳の現れ
〈君が、彼の前で、徳について、説いたように、
君の前にも、彼に向かって、徳を説いた者は居た。
しかし、その徳の高さで、彼に勝る者は居なかった。〉
〈儒者は理想を重んじ、法家は現実を重んじる。
伝統の地位に任せて、高みの見物を気取る儒者は、
内心、現実を這い回る、法家の怪物を見下していた。〉
〈そんな彼らの心を、見すかし嘲うかのように、
彼は、彼らの寄り添う、慣例や儀礼を打ち壊した。
祭り上げるか、扱き下ろすか、いずれも心の闇まで。〉
〈こうして、旧態依然とした、価値が滅びる中、
今まで抑え付けられていた、価値が生まれ始めた。
人の欲望は様々に分化し、先例なき文化が花開いた。〉
〈即ち、一極化した価値が、多極化したことで、
より多くの者が、勝利の味を占めるようになった。
逆らうだけだった者が、礼節を弁えるようになった。〉
〈唯才のみ挙げよ、この、徳を踏み躙った法が、
その実、真の意味で、徳を培わせることになった。
彼は、一言も徳を説くことなく、無言で徳を解いた。〉