物語編
第二章 第四一話 物語編
第二章 区別 と 差別
第四一話 可変的に見る と 不変的に見る
予想しなかった答えを聞いて、思わず声が上擦った。
「それでは、彼は、何も求めていないのですか。」
〈然り、彼ほど、公正無私な者を、他に知らない。
彼の大いなる欲は、民を育てる為に、全て使われる。〉
〈彼が、飽く迄、帝位に着かない、というのは、
彼が民心を捉えるのに、権威が必要でないからだ。
彼は、現実の利を動かし、民に、真実の理を明かす。〉
〈彼が、飽く迄、官位を廃しない、というのは、
民が礼儀を弁えるのに、序列が必要となるからだ。
彼は、強者を敬い、弱者を育てる、例外を許さない。〉
〈一見して、彼は、差別を愛する者のようだが、
その実、彼ほど、民を、平等に愛する者はいない。
彼は、誰もが強者となる、対等の世界を望んでいる。〉
「彼が、差別を愛しているように、見えるのは、」
〈君の方が、無意識に、差別を愛しているからだ。
人を、こうだと決めつけ、変わらないと見てしまう。〉
「彼が、平等を愛しているように、見えるには、」
〈君の方で、意識的に、区別を試みてみることだ。
今までの見え方と、今からの見え方は、全く違うと。〉