物語編
第二章 第四二話 物語編
第二章 仁愛 と 兼愛
第四二話 狭めて愛する と 広げて愛する
もしや、彼の方が、私の遥か先を、行っているのか。
〈彼は、敵方だろうと、味方だろうと、育てる。
味方を育てるために、敵方を利そうさえ、考える。
民を育てるために、彼は、非情なほど、容赦がない。〉
〈彼が、天下統一に囚われてない、というのは、
敵が居なくなると、慢心する者が現れ出すからだ。
彼は、無敵ではないが、天敵のない軍を鍛え上げた。〉
〈彼が、小国寡民に囚われている、というのは、
国が大きくなると、寄生する者が入り込むからだ。
彼は、洒脱ではあるが、奢侈のない都を作り上げた。〉
〈一見して、彼は、非情で冷たい者のようだが、
その実、彼ほど、民を、真剣に育てる者はいない。
彼は、誰もが君子となる、理想の世界を望んでいる。〉
「彼が、非情に冷たい者のように、見えるのは、」
〈君の方が、無意識に、冷酷に為っているからだ。
友の方を愛する余り、敵の方を憎んでしまっている。〉
「彼が、非常に温かい者のように、見えるには、」
〈君の方で、意識的に、冷静に成ってみることだ。
人情に縛られている限り、真情を悟ることは無いと。〉