第二章 第四二話 対話編
CASE 仁愛 の裏に 兼愛
マナミ 孔子が説く、仁愛って、どういうものなの?
マサシ 仁愛とは、縦を重んじて、深く愛することさ。
マナミ 血を慈しみ、愛を研くって、どういうこと?
マサシ 先祖を尊んで、自らの原因を、見とめるのさ。
マナミ 近親を愛すると、どうして、原因を認めるの?
マサシ 身内が居なければ、自分が存在しないからさ。
マナミ 墨子が解く、兼愛って、どういうものなの?
マサシ 兼愛とは、横を重んじて、広く愛することさ。
マナミ 他を慈しみ、愛を磨くって、どういうこと?
マサシ 後裔を敬って、自らの条件を、見とめるのさ。
マナミ 遠戚を愛すると、どうして、条件を認めるの?
マサシ 他者が居なければ、世界が存在しないからさ。
マナミ 先ず、始祖に遡って、愛を確かなものにして、
続いて、末裔に下って、愛が広がっていくの?
マサシ うん、この手続きは、絶対に換えられないよ。
マナミ 確かに、始原に遡れば、誰もが類縁になるね。
マサシ それから、遠縁を敬えば、近縁も尊ばれるよ。
マナミ 自然に、仁愛を深めて、兼愛に広がるのね。
マサシ うん、偏って愛するから、不自然に歪むのさ。
マナミ ……………………!!
CASE 仁愛 の先に 兼愛
サトミ 上に究める、仁愛って、どういうものかな?
メグミ 仁愛とは、身内を愛して、原因に遡ることよ。
サトミ 近親を憎み、因を認めないと、どうなるの?
メグミ その果である、自分が許せずに、苛まれるよ。
サトミ 近縁を愛し、因を見とめると、どうなるの?
メグミ 先祖を遡って、遠くの条件まで、愛せるのよ。
サトミ 外に極める、兼愛って、どういうものかな?
メグミ 兼愛とは、他人を愛して、条件に臨むことよ。
サトミ 遠戚を憎み、縁を認めないと、どうなるの?
メグミ その縁により、自分が御せずに、煽られるよ。
サトミ 遠縁を愛し、縁を見とめると、どうなるの?
メグミ 後裔を介して、遠くの原因まで、愛せるのよ。
サトミ 酷い親でも、愛せるなら、自らが慈しまれて、
嫌いな敵でも、許せるなら、自らが赦される?
メグミ 仁愛にせよ、兼愛にせよ、総て自分のためよ。
サトミ それでも、愛せないものは、愛せなくない?
メグミ あなたの愛が、そこまでなら、そうじゃない?
サトミ もう、やだなあ、そんなに、煽らないでよ。
メグミ うふっ、私は、煽ってないよ、自らが苛むの。
サトミ ……………………
CASE 仁愛 という 兼愛
サトシ 祖を愛する、仁愛って、どういうものかな?
アツシ 仁愛とは、我を愛すよう、因を愛することだ。
サトシ 他を愛する、兼愛って、どういうものかな?
アツシ 兼愛とは、我を愛すよう、縁を愛することだ。
サトシ う~ん、良く解らない、どういうことなの?
アツシ 君は、酷い親であろうと、愛そうと思えるか?
サトシ ううん、僕を愛さない、親なんて愛さないよ。
アツシ この瞬間、君の愛の深さに、限界が生まれた。
サトシ 僕は、親を許せる程度でしか、人を愛せない?
アツシ そうだ、愛する源泉となる、原因次第となる。
君は、憎い敵であろうと、愛そうと想えるか?
サトシ ううん、僕を愛さない、敵なんて愛さないよ。
アツシ その途端、君の愛の広さに、限界が産まれた。
サトシ 僕は、友と認める範囲でしか、人を愛せない?
アツシ そうだ、愛する対象である、条件次第となる。
サトシ 結局、好き嫌いを越えないと、愛に成らない?
アツシ まあな、好き嫌いを言えば、真の愛じゃない。
サトシ 君の愛は、厳し過ぎるし、着いて行けないよ。
アツシ たとえ、俺を認めなくても、親は重んじろよ。
サトシ ……………………
CASE 兼愛なき仁愛 と 仁愛なき兼愛
サトミ 仁愛と兼愛、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 深く愛する、仁愛って、どういうものかな?
メグミ 仁愛とは、親疎に分けて、人を愛することよ。
サトミ 広く愛する、兼愛って、どういうものかな?
メグミ 兼愛とは、親疎を越えて、人を愛することよ。
サトミ 仁愛を望み、兼愛に臨まないと、どうなるの?
メグミ 兼愛なき仁愛なんて、唯の偏愛に過ぎないよ。
サトミ じゃ、近縁を愛しても、遠縁は愛さないの?
メグミ そうよ、子孫を敬わずに、祖先を尊べないよ。
サトミ 兼愛を望み、仁愛に臨まないと、どうなるの?
メグミ 仁愛なき兼愛なんて、只の割愛に過ぎないよ。
サトミ じゃ、遠縁を愛しても、近縁は愛さないの?
メグミ そうよ、祖先を尊ばずに、子孫を敬えないよ。
サトミ 仁愛だけは、上だけ愛して、虚しくなるし、
兼愛ばかりは、外だけ愛して、空しくなるの?
メグミ うん、仁愛と兼愛、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、兼愛を望み、仁愛に臨んでいくの?
メグミ そうなの、仁愛を究め、兼愛を極めていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 儒家 の裏に 墨家
マナミ 孔子に依る、儒家って、どういうものなの?
マサシ 儒家とは、善人が説いた、基本の教えなのさ。
マナミ どの辺りが、基礎の教えと、考えられるの?
マサシ 認め易い、外を重んじて、善人を誘うからさ。
マナミ 墨子に拠る、墨家って、どういうものなの?
マサシ 墨家とは、善人に解いた、応用の教えなのさ。
マナミ どの辺りが、発展の教えと、考えられるの?
マサシ 認め難い、内を重んじて、善人を導くからさ。
マナミ 例えば、礼に関しては、どのように考えるの?
マサシ 儒の方が、誰にも分かる、型を重んじるのさ。
マナミ 例えば、家に関しては、どのように考えるの?
マサシ 儒の方が、誰にも解かる、血を重んじるのさ。
マナミ 例えば、天に関しては、どのように考えるの?
マサシ 墨の方が、誰も見えない、鬼を重んじるのさ。
マナミ 儒の基本の教えは、依り易い方に拠るけど、
墨家の応用の教えは、拠り難い法に依るのね。
マサシ 善人が真人になるには、型を越えて行くのさ。
マナミ そっか、型は大事だけど、拘ったらいけない。
マサシ うん、型を越えた先にある、道なき道なのさ。
マナミ ……………………!!
CASE 儒家 の先に 墨家
サトミ 型に塗れる、儒家って、どういうものかな?
メグミ 儒家とは、名を重んじて、差に従がうものよ。
サトミ 上に順って、下を従がえる、差を重んじるの?
メグミ 上から下まで、徳に導かれる、型に従がうよ。
サトミ 慢心を抱き、名を望んでいると、どうなるの?
メグミ 型が崩れ落ち、形と化すから、虚しくなるよ。
サトミ 型を越える、墨家って、どういうものかな?
メグミ 墨家とは、実を重んじて、差に逆らうものよ。
サトミ 上を尊んで、下を卑しめる、差を軽んじるの?
メグミ 上から下まで、欲に誘われる、型に逆らうよ。
サトミ 虚心を擁き、実を望んでいると、どうなるの?
メグミ 型を打ち壊し、空と化すから、空しくなるよ。
サトミ そっか、徳が伝わるなら、型に従がうけど、
形骸化し、欲が伝わるなら、型に逆らうわけ?
メグミ だからって、壊したままでも、空しくなるよ。
サトミ そっか、実を望むために、型を壊したけれど、
満足して、道に臨まないと、欲に従っただけ?
メグミ そうよ、道を捉えないと、欲を満たしただけ。
壊した後、道を解かないと、更地に為るだけ。
サトミ ……………………!!
CASE 儒家 と 墨家 と 道家
サトシ 型に従がう、儒家って、どういうものかな?
アツシ 儒家とは、型に従がって、欲を超えるものだ。
サトシ 道に順がう、墨家って、どういうものかな?
アツシ 墨家とは、道に順がって、型を越えるものだ。
サトシ 道と化する、道家って、どういうものかな?
アツシ 道家とは、道自体になり、道を忘れるものだ。
サトシ 最初に、欲を超えるために、型に従がうの?
アツシ ああ、型を重んじるほど、欲が御されていく。
サトシ 続いて、型を越えるために、道に順がうの?
アツシ ああ、道を重んじるほど、型が熟されていく。
サトシ 最後に、道そのものとなり、道を忘れるの?
アツシ そうだな、思いのままが、在りのままになる。
サトシ そっか、道を辿るためには、型が要るけど、
道に至り、道と化したら、型は要らないのか。
アツシ そうだ、面白いことに、道そのものになると、
最早、型を演じながらも、型に捕われてない。
サトシ そっか、型に従がうにせよ、型を破るにせよ、
型に、囚われている事に、違いは無いわけか。
アツシ そうだ、筋を知らないまま、俺も演じている。
サトシ ……………………!!
CASE 墨家なき儒家 と 儒家なき墨家
サトミ 儒家と墨家、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 型に従がう、儒家って、どういうものかな?
メグミ 儒家とは、欲に動じない、型を示すものだよ。
サトミ 型を越える、墨家って、どういうものかな?
メグミ 墨家とは、型に動じない、道を示すものだよ。
サトミ 儒家を望み、墨家に臨まないと、どうなるの?
メグミ 墨家なき儒家なんて、旧弊家に過ぎないよ。
サトミ じゃ、型に従がうけど、型を越えないのかな?
メグミ そうよ、型に順がいたい、欲に塗れていくよ。
サトミ 墨家を望み、儒家に臨まないと、どうなるの?
メグミ 儒家なき墨家なんて、急進家に過ぎないよ。
サトミ じゃ、型を越えるけど、型に従わないのかな?
メグミ そうよ、型に逆らいたい、欲に塗れていくよ。
サトミ 儒家だけは、型を守りたい、欲に捕われて、
墨家ばかりは、型を破りたい、欲に囚われる?
メグミ うん、儒家と墨家、その両方が、必要なのよ。
サトミ そっか、墨家を究め、儒家を極めていくの?
メグミ そうなの、儒家を超え、墨家を越えていくの。
サトミ ……………………!!