物語編
第二章 第四八話 物語編
第二章 天才 と 秀才
第四八話 徳を欲にする と 欲を徳にする
〈斯くして、大器晩成、全てを彼は呑み乾した。
いや、呑まれていることすら、気づかせていない、
破格的な彼の度量で、深遠なる徳の統治が確立した。〉
いや、彼の徳を封じるかの如く、私は言葉を遮った。
「確かに、彼の覇業は、悉くが道に適っている。
しかし、あまりにも、筋を通し過ぎてはいないか。
治世に生まれては能臣も、乱世に産まれては奸雄だ。」
「彼は、元より中に居たから、道を出ないのだ。
それゆえ、道の外の者のことが、分かっていない。
だからこそ、新しい者に旧い道を、辿らせてしまう。」
私が、首を振って言うと、彼も、首を振って言った。
〈君は誤解しているが、彼の道はないに等しい。
彼は敵対する道を歩もうと、それを許してしまい、
誰が如何なる道を口にしても、それを赦してしまう。〉
〈しかし、彼に代わって、天下を治めたいなら、
人事を尽さず、天命を騙るのは、断じて許さない。
必ず、一番下から一番上まで、全ての道を辿らせる。〉
〈彼ぐらい、旧き道の弱みを、知る者は居ない。
また、彼ほど、旧き道の強みを、知る者も居ない。
古きを尋ね、新しきを知る、彼の道は古いが新しい。〉