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物語編

第二章 第五六話 物語編

第二章     名   と   命
第五六話 地から銘じる と 天から命じる

 

君に見せられたものを、彼には見せなかった。
三顧の礼を断り続けて、彼の逆鱗に敢えて触れた。
君の師が、不自然に振る舞ったのは、何故だと思う。

 

私の返事を待つことなく、彼は、このように言った。

 

いや、今の君には、師の心は見えないだろう。
見えているなら、私は、君の前に現われなかった。
私が現われたのは、君に、師の思いを伝えるためだ。

 

実に、君と彼とは、全く同じ処で躓いている。
即ち、生と死を越える法を、君も彼も見とめない。
死を認めない故に、師を認めない点で、全く等しい。

 

君には見せることで、師は伝えようとされた。
すなわち、君を眠らせて、心の奥を見つめさせる。
そして、夢から覚めたとき、君に法を観とめさせる。

 

彼には見せぬことで、死を伝えようとされた。
すなわち、彼を煽りつつ、己は死を迎えてしまう。
しかし、君が生まれ変わり、師の法を観とめさせる。

 

即ち、三顧の礼が、三度の鐘に、成り代わる。
君が、師に託された法を、彼に伝えねばならない。
それこそ、師が君に遺した、天より与かる命なのだ。

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