物語編
第二章 第六十話 物語編
第二章 夢 と 現
第六十話 内に現れる心 と 外に現れる心
すると、彼は、私の足元に、短剣を投げて寄こした。
〈君と私とは、同じ命を享けて、生まれている。
君が死ねば、私に生まれ変わって、命を果たして、
私が死ぬなら、君に産まれ換わって、命を遂げよう。〉
〈君には、別の命に見えている、かもしれない。
しかし、私には、君と私が、同じ命に見えている。
自と他の別や、生と死の境は、仮のものに過ぎない。〉
〈君が、師に殉じない時は、私が死に準じよう。
さあ、師を越えるなら、君の手で私を殺してくれ、
しかし、その時は、君が、我が罪を負うことになる。〉
言い終わる前に、私は、彼の腹に突き刺していた。
鮮やかな彼の血が、剣を通して、私に伝わり落ちる。
〈これで良い、これも、もとから決まっていた。
君は、自らの手で、死を越えないとならなかった。
それ故、自らの責で、師を屠らないとならなかった。〉
夥しい血が流れて、彼の容姿は、急速に老けていく。
〔お別れだな、我が息子よ、よく顔を見せてくれ。
これからが、真の道だ、雄々しく進め、愛しい子よ。〕
何たる事か、最期の死に顔は、最愛の師の顔だった。