物語編
第三章 第二話 物語編
第三章 慚 と 愧
第二話 心から悔いる と 身まで改める
[大丈夫かい、良く気が付いたね、本当に良かった。]
目の前に、精舎で出会った、老婦の顔が現れた。
長い間、意識を失なって、放置された私の身体を、
彼女自ら、不眠不休で、介抱してくれていたようだ。
彼女の表情には、疲労が色濃く浮かんでいたが、
私の気づきを喜ぶ、笑顔の方が遥かに勝っていた。
菩薩の慈悲に導かれ、この世界に意識が戻って来る。
体の存在に気づくや、全身に激痛が襲って来た。
完膚なく叩きのめされ、至る所から皮下で出血し、
幾つかは皮が切り裂かれ、外に流れ出た跡もあった。
しかし、すべての傷口は、水で浄められた後に、
丁寧に拭かれていて、膿んでいた物は何一つない。
清潔でない処にあって、私の体は清く保たれていた。
窮地で擦れ違っただけ、そんな関係にも拘らず、
これほど労わってくれる、人の真心に感じ入って、
頑迷極まりない我が慢心は、綻びを見せ始めていた。
覆われた闇が払われて、慈悲の光が差し込むと、
中から、慚愧の念が湧き上がり、涙が流れ続けた。
自分でも、訳が分からないほどに、涕が溢れ続ける。
遠くで鳴った、鐘の音と共に、我が慢は崩れ落ちた。