第三章 第五話 対話編
CASE 名 の裏に 色
マナミ ねぇ、スカンダ、蘊って、どういうものなの?
マサシ 蘊とは、積み重ねる、五つの集まりのことさ。
マナミ 五蘊(色、受、想、行、識)は、どんなもの?
マサシ それぞれ、形状、感覚、表象、意志、識別さ。
マナミ じゃ、ルーパ、色って、どういうものなの?
マサシ 色とは、物質の性質を有する、総称のことさ。
マナミ 具体的に、どういうものが、物質のものなの?
マサシ 五蘊の前一者(形状)こそが、色そのものさ。
マナミ じゃ、ナーマ、名って、どういうものなの?
マサシ 名とは、精神の性質を有する、総称のことさ。
マナミ 具体的に、どういうものが、精神のものなの?
マサシ 五蘊の後四者(感覚、表象、意志、識別)さ。
マナミ この五つを、積み重ねるほど、どうなるの?
マサシ これらを、積み重ねるほど、実感が生まれて、
実感が湧くと、自分であると、囚われるのさ。
マナミ えっ、この五つの集まりは、自分じゃないの?
マサシ 確かに、実感が有るから、そう感じるよね。
マナミ うん、そう感じるから、そう観じるしかない。
マサシ そうやって、積み重ねたものが、五蘊なのさ。
マナミ ……………………
CASE 名 の先に 色
サトミ 精神を司るもの、名って、どういうものかな?
メグミ 名とは、時間に表れる、意識を隔するものよ。
サトミ どうして、名を授けると、意識が模られるの?
メグミ Aの名を付けると、非Aを意識し難くなるの。
サトミ 名を呼ぶと、Aが強くなり、非Aが弱くなる?
メグミ 名に捕われて、隠された者を、認めなくなる。
サトミ 物質を司るもの、色って、どういうものかな?
メグミ 色とは、空間に現れる、意味を画するものよ。
サトミ どうして、形を与えると、意味が象られるの?
メグミ Aの形を与えると、Bを意味し難くなるのよ。
サトミ 形を作ると、Aが強くなり、Bが弱くなるの?
メグミ 形に囚われて、見えない物を、認めなくなる。
サトミ 名や色を付けると、我がものは強くなるけど、
裏のものや、他のものを、見とめ難くなるの?
メグミ その通り、従来の捕え方は、簡単になるけど、
その分だけ、未知の捉え方は、困難になるよ。
サトミ 安定が加速する裏で、不安が加速する訳ね。
初めて聞いたけど、この話は、本当なのかな?
メグミ うふっ、不安なのね、それなら、本当だよね。
サトミ ……………………
CASE 五 蘊 無 我
マサシ 一体、君は何者なんだい、僕に教えて欲しい。
サトミ あらら、この綺麗な容姿が、見えていないの?
マサシ 物質や形状は、実体そのもの、じゃないのさ。
サトミ じゃあ、この可愛い声音が、聞えていないの?
マサシ 感覚や感情は、実体そのもの、じゃないのさ。
サトミ じゃあ、この優雅な印象が、伝わってないの?
マサシ 心象や表象は、実体そのもの、じゃないのさ。
サトミ じゃあ、この高貴な血筋を、知っていないの?
マサシ 経歴や業績は、実体そのもの、じゃないのさ。
サトミ もうっ、この丁寧な説明が、解からないわけ?
マサシ 識別や観念は、実体そのもの、じゃないのさ。
サトミ 酷いわ、そう言う、あんたこそ、誰なのよ!
マサシ 答えられない、応えられないこそ、答えだよ。
サトミ 狡いわ、あたしには、何度も、聞いたくせに!
マサシ 答えられない、無理に応えると、偏見が入る。
サトミ 嘘つき、逃げ回っていないで、答えなさいよ!
マサシ 僕は、酷い、狡い、嘘つき、そんなものかな?
サトミ ほらね、そうだと思った、それこそ実体よ。
マサシ ほら、そう言うと想ったよ、これこそ真実さ。
サトミ ……………………
CASE 色のない名 と 名のない色
サトミ 名と色、どちらの方を、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 名づけるもの、名って、どういうものかな?
メグミ 名とは、心の要素であり、意識に属すものよ。
サトミ 形づくるもの、色って、どういうものかな?
メグミ 色とは、物の要素であり、意味に属すものよ。
サトミ 名を重んじて、色を軽んじると、どうなるの?
メグミ 色のない名なんて、単なる霊体に過ぎないよ。
サトミ じゃ、心に捕われて、物を捉えられないの?
メグミ そうよ、霊に囚われて、体を纏えなくなるよ。
サトミ 色を重んじて、名を軽んじると、どうなるの?
メグミ 名のない色なんて、単なる物体に過ぎないよ。
サトミ じゃ、物に捕われて、心を捉えられないの?
メグミ そうよ、体に囚われて、霊を宿せなくなるよ。
サトミ 名だけは、霊だけになり、観じ難くなるし、
色ばかりは、物だけになり、感じ難くなるの?
メグミ そうよ、名と色、その両方が、必要になるの。
サトミ じゃ、色を究めながら、名を極めていくの?
メグミ うふっ、名を超えながら、色を越えていくの。
サトミ ……………………!!