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物語編

第三章 第八話 物語編

第三章    取   と   有
第八話 果に囚われる と 因に戻れない

 

魂が打ち震え、次から次へと、涙が零れ落ちる。
この世界は、元から完璧であり、欠けた物が無い。
闇や悪でさえ、美しさと優しさで、光り輝いていた。

 

あたかも、瀑布の如く、次々に流れ落ちる涙で、
私の目の曇りは、洗い流され、浄められて行った。
今まで、朧げにしか見なかった、物達が浮き上がる。

 

牢獄の石畳に、餌を求め、鼠が這い回っている。
以前の私ならば、追い払い、近寄らせなかったが、
今は、彼らの生き様を見つめ、敬意を払いたくなる。

 

鉄格子の窓に、大きな蜘蛛が、巣を張っている。
以前ならば、木の枝など使って、取り除いた筈が、
今は、巣の模様に神聖を感じ、興味を抱いてしまう。

 

奇跡と呼ぶべき、自らの生を、抱き締めるほど、
他の生の豊かさが、心の底から、湧き上って来る。
外の命の輝きは、内なる命の耀き、そのものだった。

 

曇り無き眼で見渡すと、慈悲に満ち溢れていた。
総べてが自分であり、元より自分など居なかった。
我だけが、我が無いと悟り得る、これが真相だった。

 

何を見ても美しい、全ての物に神が宿っている。
神懸りを辞めて、覚めた目で、世の中を見渡すと、
中々どうして、あらゆるものが、神懸って蘇えった。

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