第三章 第八話 対話編
CASE 取 の裏に 有
マナミ ねぇ、ウパダーナ、取は、どういうものなの?
マサシ 取とは、欲に捕われて、業が生まれることさ。
マナミ 業が産まれ、不可避になると、どうなるの?
マサシ あたかも、業が返るように、未来を避けない。
マナミ じゃ、バーヴァ、有って、どういうものなの?
マサシ 有とは、業が生まれて、身が産まれることさ。
マナミ 身が生まれ、不可逆になると、どうなるの?
マサシ さながら、体が老いるよう、過去に戻れない。
マナミ つまり、業が生まれても、元に戻れるけど、
それから、身が産まれると、元に戻れないの?
マサシ そうさ、身を有するとき、我が器が生じる。
それゆえ、器が溢れるまで、業が積み重なる。
マナミ 器が無いと、積み重ならずに、跳ね返るだけ。
器が生じると、積み続けて、詰んでしまうの?
マサシ 満ちるまで、業を積んで、偏り続けるけど、
溢れてくると、業が返って、直り始めるのさ。
マナミ 身を有すと、器の大きさだけ、偏れるわけね。
大きく偏ると、其の分だけ、大きく直される。
マサシ その通りさ、避けられないし、逆らえないよ。
マナミ ……………………!!
CASE 取 の先に 有
サトミ 執着すること、取って、どういうものかな?
メグミ 取とは、業を積み重ねて、捕われることなの。
サトミ 業を積み、器に満ちるほど、どうなるのかな?
メグミ 業が詰んで、器の形まで、現れるようになる。
サトミ 存在すること、有って、どういうものかな?
メグミ 有とは、業が詰み重なり、物になることなの。
サトミ 業が詰み、器が見えるほど、どうなるのかな?
メグミ 物に変わり、他の人から、見えるようになる。
サトミ 取の段は、器が空いていて、形が分からず、
有の階では、器が埋まるから、形が解かるの?
メグミ 取の段は、内と外に分れず、外に知られず、
有の階では、外と内に別れて、外に縛られる。
サトミ つまり、我が存在を透して、作用を与えると、
その裏で、他の存在を通して、作用を受ける?
メグミ もはや、自分のことだけで、完結できないの。
サトミ 作用した、責任を取るまでは、元に戻れない?
メグミ そうよ、身体を持つことは、その制約なのよ。
サトミ なるほど、生まれた限り、命を果たすわけね。
メグミ うふっ、肉体を持つことは、その誓約なのよ。
サトミ ……………………!!
CASE 飛んで 火に入る 夏の虫
サトシ どうして、虫って、火の中に飛び込むのかな?
サトミ 虫には、光に集まる、習性が有るからでしょ。
サトシ 火と光は、全く違うよ、そんなのおかしいよ。
サトミ 虫には、火だろうが、光だろうが、同じなの。
サトシ 光という、善いものを、望んでいるうちに、
火というさ、悪いものに、臨んでしまうわけ?
サトミ 一度でも、癖になると、麻痺してしまって、
善いことと、悪いことの、区別が付かないの。
サトシ なるほど、凄いことが、僕は分かっちゃった。
サトミ なによ、あんたなんかに、何が解かったわけ?
サトシ すべての、苦の原因は、分別が付かないこと。
つまり、見分けが付けば、どんな苦も消える。
サトミ そんなの、当たり前でしょ、何処が凄いのよ。
サトシ 最初に、善に見とめたら、善しか見えないし、
本当なら、悪も見えるのに、悪まで見えない。
サトミ もうっ、当たり前でしょ、何も凄くないわ。
あんたね、何を今さら、解った振りしてるの。
サトシ ううん、だからまさしく、こういうことだよ。
君だって、見たい様にしか、僕を見ていない。
サトミ ……………………
CASE 有のない取 と 取のない有
サトミ 取と有、どちらの方を、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 縁まで溜まる、取って、どういうものかな?
メグミ 取とは、業を積んで、心が捕われることだよ。
サトミ 器から溢れる、有って、どういうものかな?
メグミ 有とは、業が詰んで、身が生まれることだよ。
サトミ 取を重んじて、有を軽んじると、どうなるの?
メグミ 有のない取なんて、単なる幽霊に過ぎないよ。
サトミ じゃ、業を積んでも、身が随わないのかな?
メグミ そうよ、摺り抜けると、心が感じにくいのよ。
サトミ 有を重んじて、取を軽んじると、どうなるの?
メグミ 取のない有なんて、単なる病身に過ぎないよ。
サトミ じゃ、業が詰んでも、心が伴わないのかな?
メグミ そうよ、悔い改めない、身が病んでいくのよ。
サトミ 取だけは、身が空しくて、透き通るだけで、
有ばかりは、心が虚しくて、病み逝くだけか。
メグミ そうよ、取と有、その両方が、必要になるの。
サトミ じゃ、有を介しながら、取を解していくの?
メグミ うふっ、取を超えながら、有を越えていくの。
サトミ ……………………!!