物語編
第三章 第十話 物語編
第三章 順観 と 逆観
第十話 有るから有る と 無いから無い
事の次第を、説明してくれた彼女は、笑って言った。
[もっと、過去が必要なら、遡って教えようか。]
当然の様に、言って来るから、思わず噴き出した。
私よりも、私を知っている、貴女は一体何者なのか。
「聞いてもみたいですが、止めておきましょう。
過去を聴いてしまえば、未来が現れてしまいます。
今の私には、命が果せるだけの、現在があれば十分。」
[老師が亡くなったことは、君は知っているね。]
「色界に赴き、世の型として、私は見て来ました。
師の命は、我が手に屠られ、我が身に宿っています。」
[老師は、毒杯を仰いで、刑死を受け容れたよ。]
「欲界では、悪を飲み込む、形で映されましたか。
色界の型では、刃が沈み込み、血が滴り落ちました。」
[罪状は、人々を惑わし、堕落させた罪だった。]
「欲界では、人を酔わせた、業が問われましたか。
色界の法では、人を育てずに、世を捨てた罪でした。」
[確かに、夢の中で、元型を見て来たようだね。
この世界と違ってはいるが、それも揺らぎの範囲。
むしろ、こちらの方こそ、揺らぎ続ける形の世界さ。]