物語編
第三章 第二二話 物語編
第三章 積善 と 積徳
第二二話 業が積まれる と 業が摘まれる
「王よ、今まで、幾ら殺したか、覚えているか。
意識的に忘れていても、無意識は忘れてはいない。
人を欺くことは出来ても、天を欺くことは出来ない。」
「確かに、国法を守るという、条件に限るなら、
法を布いて、罪人を裁くことは、善となるだろう。
たとえ、その法が、法の為の法に、過ぎなかろうと。」
「しかし、国法を護るという、条件を外れたら、
法を強いて、罪人を作ることは、悪になるだろう。
もとより、法の無いところに、善も悪も有り得まい。」
「王よ、法の名の下に、斬って捨てた罪人の善、
法で切り捨てた者の、忘れ難い善を覚えているか。
彼らの善は王に託され、汝の心の闇に隠されている。」
「王に、悪として、切り捨てられた、他の善は、
王に、善として、受け容れるよう、迫り続けよう。
そして、無意識に、彼らと同じ、状況に立たされる。」
「自ら法を犯してまで、我が首を刎ねたくなる。
湧き上がる、この激情が、偶然の産物と思うたか。
然に非ず、汝が切り捨てた、怨霊の念が為せる業だ。」
「構わない、賢き王よ、我が首を、刎ねてみよ。
その瞬間、理性の箍が外れて、分別の法が敗れる。
義人と罪人、自らと彼らの間に、何の差も無くなる。」