第三章 第二二話 対話編
CASE 積善 の裏に 積徳
マナミ 善を重ねる、積善って、どういうものなの?
マサシ 積善とは、我に捕われて、善を積むことだよ。
マナミ 我を介して、善を積むには、どうするのかな?
マサシ 善悪を解して、思いのままに、行を為すのさ。
マナミ 善を積んで、善を重ねると、どうなるのかな?
マサシ 善が起きると、何より善いと、思えて来るよ。
マナミ 徳を重ねる、積徳って、どういうものなの?
マサシ 積徳とは、我に囚われず、徳を積むことだよ。
マナミ 我を介さず、徳を積むには、どうするのかな?
マサシ 善悪を解さず、在りのままに、行を為すのさ。
マナミ 徳を積んで、徳を重ねると、どうなるのかな?
マサシ 何が起きても、何でも良いと、想えて来るよ。
マナミ 良くを比べ、良くを味わうのが、善であり、
良くを較べず、良くを味わうのが、徳なのね。
マサシ 善いを望んで行うと、善を積むことになり、
良いに臨んで行うほど、徳を積むことになる。
マナミ つまり、後で善いは、今は悪いの裏返しね。
それなら、既に良いに、臨んだ方が良いのね。
マサシ 確かに、そうさ、だけど、今、比べていたよ。
マナミ ……………………!!
CASE 積善 の先に 積徳
サトミ 善くを積む、積善って、どういうものかな?
メグミ 積善とは、業が積まれて、善が増えることよ。
サトミ 業を積んで、善を培うには、どうするのかな?
メグミ 思いのままに、善いと思って、行えば良いよ。
サトミ 自らが、望んでいることを、突き詰めるわけ?
メグミ うん、同じ事が起きたら、同じ様に思えるよ。
サトミ じゃあ、業を積むほど、思いのままに見るの?
メグミ そうだよ、善が詰むほど、悪を認めないのよ。
サトミ 解くを積む、積徳って、どういうものかな?
メグミ 積徳とは、業が摘まれて、空が広がることよ。
サトミ 業を摘んで、徳を培うには、どうするのかな?
メグミ 在りのままが、良いと想って、行えば良いよ。
サトミ 自ずと、臨んでいることを、受け容れるわけ?
メグミ うん、違う事が起きても、同じ様に想えるよ。
サトミ じゃあ、業を摘むほど、在りのままに見るの?
メグミ そうだよ、徳を積むほど、全て見とめるのよ。
サトミ そっか、好きにすると、邪魔が増えてきて、
逆に、好きにしないほど、邪魔が減っていく。
メグミ うふっ、この罠を解くのが、積徳の道なのよ。
サトミ ……………………!!
CASE 積善 という 積徳
サトシ ある人が、薬を望んでいる、病人に対して、
善かれと思い、薬を飲ませると、どうなるの?
アツシ その人は、善因を積んで、善縁を作ったから、
嬉々として、善いと想える、果が返って来る。
サトシ ある人が、薬を望んでいない、病人に対して、
善かれと思い、薬を飲ませると、どうなるの?
アツシ その人は、善因を積んで、悪縁を作ったから、
嫌々ながら、善いと想える、果が返って来る。
サトシ ある人が、薬を望んでいない、病人に対して、
我を介さずに、薬を飲ませると、どうなるの?
アツシ その人は、徳を積んで、悪縁を作ったから、
何だろうと、良いと想える、果が返って来る。
サトシ 善悪を解していると、縁に左右されるけど、
善悪を介していないと、縁に左右されないね。
アツシ ああ、器が大きいと、相手も自分の内だから、
もはや、外の条件でなく、内なる原因になる。
サトシ すべてを、受け容れる、大自然そのものだね。
う~ん、そうなるために、どうすれば良いの?
アツシ すべてを、有り難いと、受け容れるだけだな。
サトシ ……………………!!
CASE 積徳なき積善 と 積善なき積徳
サトミ 積善と積徳、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 善を増やす、積善って、どういうものかな?
メグミ 積善とは、善を明らめて、徳を諦めることよ。
サトミ 空を広げる、積徳とは、どういうものかな?
メグミ 積徳とは、徳を明らめて、善を諦めることよ。
サトミ 積善に望み、積徳に臨まないと、どうなるの?
メグミ 積徳なき積善なんて、八方美人に過ぎないよ。
サトミ じゃ、誰かに善くても、誰かに悪いものなの?
メグミ そうよ、善だけ重ねると、悪い縁を造るのよ。
サトミ 積徳に望み、積善に臨まないと、どうなるの?
メグミ 積善なき積徳なんて、傍若無人に過ぎないよ。
サトミ じゃ、自らは捕われず、周りは囚らわれるの?
メグミ そうよ、徳だけ重ねると、悪い縁を作るのよ。
サトミ 善だけでは、他を気にして、縁が悪くなり、
徳ばかりでは、他を気にせず、縁が悪くなる?
メグミ うん、積善と積徳、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、積徳を追い、積善を負っていくの?
メグミ そうなの、積善を究め、積徳を極めていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 有作 の裏に 無作
マナミ 業を作ること、有作は、どういうものなの?
マサシ 有作とは、思いのままに、行為することだよ。
マナミ 欲に従がい、我に塗れると、業が作られるの?
マサシ 何より善いを、望んで行って、業が生じるよ。
マナミ 悪を行わず、善に捕われて、至善を究めるの?
マサシ 最終的に、悪は悪のまま、善まで悪くなるよ。
マナミ つまり、良くを究めて、飽くに極められるの?
マサシ うん、何を行っても、必ず、業が詰まるのさ。
マナミ 業を作らない、無作は、どういうものなの?
マサシ 無作とは、在りのままに、行為することだよ。
マナミ 欲を離れて、我を越えると、徳が培われるの?
マサシ 何でも良いに、臨んで行って、徳を招じるよ。
マナミ 善に拘らず、悪に囚われず、自然を極めるの?
マサシ 最終的に、善でも良いし、悪でも良くなるよ。
マナミ つまり、空くを究めて、解くに極められるの?
マサシ うん、何を行っても、必ず、徳を積めるのさ。
マナミ 何が善くて、何が悪いか、突き詰めるほど、
最終的に、何でも良くなる、何だか面白いの。
マサシ それは、突き詰めないと、受け容れられない。
マナミ ……………………!!
CASE 有作 の先に 無作
サトミ 我を覚える、有作って、どういうものかな?
メグミ 有作とは、自我に囚われ、業を重ねることよ。
サトミ 我を介して、行ったことは、業が生じるの?
メグミ そうだよ、同じ事が起き、同じに見えるのよ。
サトミ いつも、同じ様に見えると、どうなるのかな?
メグミ 在り来り、当たり前なものに、見えて来るよ。
サトミ 我を忘れる、無作って、どういうものかな?
メグミ 無作とは、自然に委ねて、徳を重ねることよ。
サトミ 我を介さず、行ったことは、業を招じないの?
メグミ そうだよ、何が起きても、何でも良いのよ。
サトミ いつも、全て良く見えると、どうなるのかな?
メグミ 有り難く、初めて見るように、見えて来るよ。
サトミ つまり、善きにつけても、悪しきにつけても、
最終的に、善悪なんて、飽きてしまうのかな?
メグミ そうよ、積み上げるほど、飽きて来るから、
少しずつ、考えを改め、自ら諦めてしまうよ。
サトミ つまり、育て上げてから、打ち壊されるまで、
自我には、其の全てが、織り込み済みなのね。
メグミ 自然は、そんな自我さえ、有り難く見えるよ。
サトミ ……………………!!
CASE 無 作 の 大 善
サトシ あのね、無作の大善は、どういうものかな?
マサシ 無為自然、分別を超える、菩薩が為すことは、
何だろうと、大善に変わる、ということだよ。
サトシ 大善って、善を越える徳、ということでしょ。
善と徳って、何が違うのか、良く解らないな。
マサシ それなら、虫が群がって、神殿を汚している。
この時、君は、神のために、殺虫剤を撒ける?
サトシ うん、神のためなら、きっと、善を積めるよ。
マサシ それなら、人が群がって、神殿を穢している。
この時、君は、神のために、殺人剤を撒ける?
サトシ うん、神のためなら、きっと、善を積めるよ。
マサシ 神殿と、思っていたら、実はね、魔殿だった。
君は、善業どころか、悪業を積んでいたのさ。
サトシ う~ん、そういう後出しは、止めて欲しいな。
マサシ いやいや、突き詰めると、全てがそうなのさ。
善悪なんて、見方が変れば、容易に入れ替る。
サトシ せっかく、積み重ねて来たのに、本当に困る。
マサシ そうさ、そこまで気づいたら、諦めれば良い。
損得勘定、分別を超えれば、全てが徳になる。
サトシ ……………………!!
CASE 無作なき有作 と 有作なき無作
サトミ 有作と無作、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 我を重ねる、有作って、どういうものかな?
メグミ 有作とは、有為を通して、自我を為すことよ。
サトミ 我を越える、無作って、どういうものかな?
メグミ 無作とは、無為を徹して、自然に為ることよ。
サトミ 有作を望み、無作に臨まないと、どうなるの?
メグミ 無作なき有作なんて、有為転変に過ぎないよ。
サトミ じゃ、自我を為しても、自我が転じていくの?
メグミ そうよ、自我を守っても、自然に変じていく。
サトミ 無作を望み、有作に臨まないと、どうなるの?
メグミ 有作なき無作なんて、無為自然に過ぎないよ。
サトミ じゃ、自然に為っても、自然に過ぎていくの?
メグミ そうよ、自然を護っても、無為に去っていく。
サトミ 有作だけは、守ろうとして、逆の果になり、
無作ばかりは、過そうとして、何の果もない?
メグミ うん、有作と無作、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、無作を追い、有作を負っていくの?
メグミ そうなの、有作を究め、無作を極めていくの。
サトミ ……………………!!