物語編
第三章 第二五話 物語編
第三章 顕教 と 密教
第二五話 顕われた教え と 秘された教え
『とはいえ、言いたい事は、悲しいほど分かる。
悪に偏れば善に偏らせ、善に偏れば悪に偏らせる。
人は、いずれ、善と悪を、諦らめなければならない。』
『生から死を明めるように、善から悪を諦める。
うすうす、気づいていたのに、諦められなかった。
というより、明らかになるほど、囚われてしまった。』
『王として、背負ったものが、多過ぎたからだ。
法を説いた者が、法を解くとは、思いもするまい。
他に明かした法を、自ら諦らめる、訳にはいくまい。』
『実体が無いはずなのに、実感が詰んでしまう。
これが、業を積んで、罪を重ねる、ということか。
我が法の支配など、大逆に過ぎぬと、天は嘲笑うか。』
『確かに、認め難い、およそ、解り難い真実だ。
我が半生の積み重ねが、一瞬にして灰燼に帰した。
出来ることなら、この顛末を、知りたくはなかった。』
『しかし、王として、認めない訳にはいくまい。
ただし、彼らには、これらを、明かさないで貰う。
彼らには、まだ早い、彼らには、まだ耐えられない。』