物語編
第三章 第二六話 物語編
第三章 勧善 と 懲悪
第二六話 善業を重ねる と 悪業を落とす
『今、法を解けば、再び、乱世に戻ってしまう。
人が欲のままに、罵り合い、奪い合う、畜生の世。
強い者が弱い者を喰らい、弱い者が強い者に媚びる。』
『億の民が苦しむ、天下を背負い、法を布いた。
善き業に徹して、悪しき業を撤する、勧善と懲悪。
確かに、血と汗は流れたが、民の顔は豊かになった。』
『財を奪うだけの者が、財を与えるようになり、
楽に流れるばかりの者が、労を喜ぶようになった。
今では、民の中で、善を疑う者など、一人も居ない。』
『何故なら、彼らは、確実に豊かになっている。
布施と持戒の見返りで、現実が善くなったからだ。
善くなるものが、悪くなろうとは、決して思うまい。』
『しかし、裏を返せば、確実に悪くなっている。
苦役を負い、豊かに成っていく、天人の裏にこそ、
苦労を知らず、裕かに為っている、餓鬼の姿がある。』
『そう、先人の果報を譲り受ける、子孫の代だ。
初代が創りしものを、次代が保てば、三代が壊す。
苦労を知らない世代に、勧善懲悪の法は、届かない。』