物語編
第三章 第二八話 物語編
第三章 善行 と 悪行
第二八話 裏で悪を行う と 裏で善を行う
『確かに、先を見なければ、正しさは保たれる。
正法が生まれると、漏れなく、末法が埋まれるが、
末法を観とめないと、手放しで、正法を認められる。』
『愚かな方が良いのか、賢い方が良くないのか。
いや、そんな道理はない、追い詰められた理性が、
ぎりぎりのところで、私に、斯くの如く訴えてくる。』
『確かに、正しいと信じるほど、実感は固まる。
実感が固まれば、さらに、思い込めるようになる。
思い込みに、思い込みを重ね、正しさが積み重なる。』
『しかし、正しさを重ねるほど、実感が変わる。
実感が換われば、さらに、思い込まねばならない。
思い込みが、思い込みを招き、取り返しが付かない。』
『信じられるか、希望と絶望が、別なのでなく、
希望を究めるほど、絶望に極まる、というわけだ。
逆のものでなく、裏のものであると、何たる皮肉か。』
『この私は、何のために、行を重ねているのか。
法を育てたいからか、いや、業に腐らせるためか。
実感を究めたいからか、いや、実感に窮まるだけか。』