物語編
第三章 第二九話 物語編
第三章 輪廻 と 涅槃
第二九話 無常を究める と 無我を極める
『思い返せば、我が法とは、欲を究める善の法。
小さな欲を、大きな欲に変え、良くを突き詰める。
欲を御する者は善くなり、欲に溺れる者は悪くなる。』
『欲に窮まる者は、数だけ多い、弱き者となる。
悪人は、独善に陥り、他を苦しめて、善しとする。
餓鬼に堕ち、畜生に落ち、窮まる先は、地獄となる。』
『欲を究める者は、数の少ない、強き者となる。
善人は、至善を求め、他を喜ばせて、善しとする。
人間に到り、修羅に至り、究めた先に、天人となる。』
『千年の王朝の礎の為に、私は善の業を重ねた。
そして、近い先、有史以来、誰も成し得なかった、
天子の座、誰も及ばない、最善に就こうとしている。』
『愚かになれない、私は、ここで、唖然とする。
誰も及ばない最善とは、実に、誰も適わない独善。
善業を究めた、第六天の王座に、悪魔が潜んでいる。』
『信じられるか、至善と独善が、別なのでなく、
至善を究めるほど、独善に極まる、というわけだ。
逆のものでなく、裏のものであると、何たる皮肉か。』