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物語編

第三章 第三十話 物語編

第三章    有情   と   無情
第三十話 生きている者 と 死んでいる物

 

確かに、欲界の玉座に、自ら据わらなければ、
画竜の点睛を欠き、我が法の支配は、完成しない。
三角の、頂点に納まることなく、底辺は収まらない。

 

しかし、頂点に至ってしまえば、独善に陥る。
悪を認めない、善しかない境地とは、至純なる善。
至善という独善をして、天から地へと、生れ変わる。

 

その瞬間、奴らに向けてきた、我が法の刃が、
至善を越えて、独善に落ちた、自らに向い始める。
法に裁かれ、死んで逝った者の、怨念に憑依される。

 

三国の鼎立を許し、権力の集中を避けたのも、
皇帝を名乗ることなく、天子を擁立し続けたのも、
すべては、薄々、このことに、気づいていたからだ。

 

善を突き詰めて、至善を求めてきたばかりに、
悪を受け容れて、独善を許せなくなってしまった。
最後の最後に、最も認められない、最悪が残された。

 

信じられるか、最善と最悪が、別なのでなく、
最善を究めるほど、最悪に極まる、というわけだ。
逆のものでなく、裏のものであると、何たる皮肉か。

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