物語編
第三章 第三一話 物語編
第三章 小乗 と 大乗
第三一話 小さい乗り物 と 大きい乗り物
『勧もうにも進めず、また、引こうにも退けず、
このまま、死者のように、生存するしかないのか。
永遠に、この欲望の世界を、浮沈するしかないのか。』
『最善を究めるときに、最悪を極めることなど、
実際に最善を突き詰めた、私の他に誰も知らない。
何も知らない、我が家臣は、私を窮境に推し上げる。』
『その中に、忠臣の純粋な想いとは、別にして、
奸臣の不純な阿りが、混じているのは知っている。
加えて、亡者の積年の怨みまで、入っているとはな。』
『憑いて来る者を捨ててしまうのは、心が痛む。
しかし、今は一切を諦めて、欲の出離を考えよう。
誰よりも欲に憑かれた、私は、誰よりも欲に疲れた。』
『隅々まで明らめたが、この欲界は閉じている。
明らかに、欲界を超越した世界が、何処かにある。
その地を明らめられるなら、この地を諦めてもいい。』
『偶然か、必然か、人払いをすることが出来て、
今こうして、本心を、打ち明けることが出来たが、
神は居るのか、私を救える者が、何処かに居るのか。』