物語編
第三章 第三三話 物語編
第三章 利己 と 利他
第三三話 自己を利する と 他者を利する
『俄わかに、信じ難い、凡そ、在り難い真実だ。
欲界を極めた我が自負が、一瞬にして砕け散った。
いや、だからこそ、ここは、有り難いと言うべきか。』
『面白い、我が支配を、越える者が居ると聞き、
我が信条は壊れていくも、我が真情は震えている。
これが、悔しい涙か、嬉しい涙か、まるで分からん。』
そう言うと、彼は、法服を脱いで、法檀を降りた。
近づいて来る、彼の頬には、一筋の涙が輝いていた。
『どうか、私を越える者に、会わせてくれないか。
その賢者に、我が罪を告白し、真実の法を乞いたい。』
「いや、それは、到底、適わない願いになった。」
『なぜだ、心から、犯した罪を打ち明けたいのだ。』
「だからだ、それで、適わなくなったのではないか。」
「実に、今こそ、汝は、自らの欲を疑うべきだ。
このように、欲は、最善を求めて、最悪に変わる。
己を利するほど、己を害してしまう、それが欲界だ。」
瞬時に、己の罪深さを悟った、彼は泣き叫んだ。
聞くに耐えない、呪いの言葉が、喚き散らされる。
噴き出た物は、御し切れなかった、彼の本性だった。