物語編
第三章 第三四話 物語編
第三章 羅漢 と 菩薩
第三四話 小乗を修める と 大乗を進める
『生きもせず、死にもせず、何も活かさぬまま、
世間を騒がすばかりで、世俗を治めようとしない。
隠者を気取る老子の姿に、抑え難い怒りが湧いたが。』
『進みもせず、退きもせず、徒に頂きに昇らず、
天頂に近づくばかりで、地獄を支えようとしない。
天人を気取る自身の姿に、堪え難い憤りを感じたか。』
『それは、すなわち、涅槃に安らう老子の中に、
天魔の命を果たせない、我が怠慢を見ていた訳か。
私は老子に罪を着せ、自らの慢を振り返らなかった。』
『知りもせず、悟りもせず、何も果たさぬまま、
真理を掲げるばかりで、道理を辿ろうとはしない。
賢者を気取る若者の姿に、押え難い怒りを覚えたが。』
『好みもせず、嫌いもせず、何も許さないまま、
法に任かせるばかりで、徳で認めようとはしない。
怪物を気取る法家の姿に、堪え難い痛みを感じたか。』
『それは、すなわち、天命を享けた若者を見て、
天魔の命を果たせない、我が嫉妬に駆られた訳か。
私は若者に責を問い、自らの欲を振り返らなかった。』