物語編
第三章 第三五話 物語編
第三章 明 と 行
第三五話 突き詰める智 と 受け容れる徳
『煌びやかな慢の衣は、独り善がりの威を与え、
取り返しの付かない、大逆の罪に私を駆り立てた。
自分では、善いと思い込むから、これは性質が悪い。』
『この欲界の頂きには、深淵が横たわっている。
積み重ねた善と悪が、引っ繰り返る最悪な仕掛け。
この大峠を越えないと、色界に達する扉は開かない。』
『当然、善を積めば、最善に至ると思うだろう。
如何して、善が詰んで、最悪に到ると想うものか。
誰もが、善の向うに、神が住まうと信じて疑わない。』
『実際は違った、天頂の先には、地獄が有った。
梵天が住まう処は、善悪を越えた、色界に在った。
玉座の裏にこそ、出口が隠れるとは、何たる仕組か。』
誰にも解らない、欲界の絡繰りに、彼は絶望した。
吐き出させるだけ、吐き出させてから、私は言った。
「最後の、最後まで、欲界を諦めなかったのは、
他でもない、汝が、前世からの菩薩だったからだ。
簡単に諦めていたら、器の大きい菩薩とは言えない。」
「ただ、師を持たないゆえ、我に囚われていた。
誰にも打ち明けられず、一人で負い続けたために、
そんな汝の心を解くべく、敢えて師は汝に屠られた。」