物語編
第三章 第三七話 物語編
第三章 勢至 と 観音
第三七話 自由を司る徳 と 自在を司る徳
「良いか、汝が積み重ねたこと、何から何まで、
すべて、師の掌の上で、起された事と知るがいい。
汝の意志は、師の意思が、現われたに、過ぎないと。」
「すると、積み上げた業が、徳に生まれ変わる。
他に、善に映ろうが、悪に移ろうが、関係がない。
我の欲を離れ、天の為に果すこと、総べて徳となる。」
「これこそ、無作の大善と、呼ばれる型である。
無作とは、何も考えないこと、という意味でない、
考え尽くし、何も考えなくなる、という妙味である。」
「良いか、自由を究めるとき、不自由に窮まる。
得というものは、損をする前に、徳に変えるべき。
欲を以って得られたものは、他に与えて徳に変えよ。」
「さあ、欲界の頂点を司る、天界の玉座に就け。
呪われようと、罵られようと、地獄の盟主と成れ。
恐れることはない、無作に徹すれば、功徳に変わる。」
「これこそ、魔王の堕天と、呼ばれる型である。
堕天とは、天から落ちること、という翻意でない、
天を堕りて、地から支えること、という本意である。」