物語編
第三章 第三八話 物語編
第三章 無 と 空
第三八話 否定した一元 と 肯定した一元
『罪に苛む者に、更に罪を犯せ、と申されるか。
いや、過去の絶望にしても、未来の希望にしても、
我が存在など、無間の地獄に、消し去るに相応しい。』
肩を落とし、座り込んで動かない、彼に語り掛ける。
「確かに、二元の世界の、陰も陽も否定すれば、
欲界でもなく、色界でもない、一元の世界に至る。
そこは、業がない故に罪もない、無色に止まる世界。」
「しかし、我を消すだけで、罪が消えるものか。
たとえ、汝は忘れようと、他は忘れることがない。
汝の所業は、他の記憶に刻まれ、時を隔てて蘇える。」
「即ち、たとえ、涅槃の世界に至ったとしても、
後に必ず、他の者の念で、引き戻される時が来る。
遠い先の事でも、時が流れないならば、一瞬の先だ。」
「残酷だが、罪を認めず、許される罪などない。
前向きに、業を認めてこそ、徳に変わるのである。
後に退く事など敵わない、前に進む事しか適わない。」
「すると、至れる涅槃の世界に、変化が現れる。
無の闇の世界が、空の光の世界に、変わっていく。
良いか、菩薩の君が、求めるべきは、光に輝く空だ。」